今週のことわざ

画竜(がりょう)点睛(てんせい)

2008年1月7日

出典

歴代名画記(れきだいめいがき)・巻七・叙(の)歴代能画(れきだいのうが)ノ人名(じんめい)・梁(りょう)

意味

文章や絵画で、最も重要な箇所に手を加えて、効果をあげること。最後のたいせつなところに手を加え、物事を完成すること。また、わずかな加筆・加工で全体が引き立つことのたとえ。「画竜(がりょう)」は、竜の絵をかくこと。「点睛(てんせい)」は、瞳(ひとみ)を一筆かき加えること。通常、「画竜点睛を欠く」という句で用いられ、物事を成し遂げるのに、最後に肝心な一点を仕上げることをしなかったため、全体が不完全になってしまうことをいう。

原文

又金陵安楽寺四白竜、不眼睛。毎云、点睛即飛去。人以為妄誕。固請点之。須臾雷電波壁、両竜乗雲、騰去上天。二竜未眼者見在。
〔又、金陵(きんりょう)の安楽寺(あんらくじ)の四白竜は眼睛(がんせい)を点ぜず。毎(つね)に云(い)う、睛(ひとみ)を点ずれば即(すなわ)ち飛び去らん、と。人以(もっ)て妄誕(もうたん)と為(な)す。固く謂いてこれに点ぜしむ。須臾(しゅゆ)にして雷電壁を破り、両竜雲に乗じ、騰去(とうきょ)して天に上る。二竜の未(いま)だ眼を点ぜざる者は見在(げんざい)す。〕

訳文

(南朝の梁(りょう)《五〇二~五五七》の張僧繇(ちょうそうよう)は呉中(ごちゅう)の人で、有名な画家であった。)金陵(きんりょう)(=南京(ナンキン))の安楽寺(あんらくじ)という寺の壁に四匹の白い竜の図をかいたが、その竜に瞳(ひとみ)をかき入れなかった。いつも、「もし瞳をかき入れたら、この竜はすぐ飛んで行ってしまうよ。」と言っていた。人々は彼がでたらめを言っていると思い、是非とも瞳をかき入れるように求めた。彼がそこで二匹だけ瞳を入れると、しばらくして雷が鳴り、稲妻が走り、壁が壊れ、瞳をかいた二匹の竜は雲に乗って天に飛び上がり行ってしまった。まだ瞳をかき入れなかった二匹の竜は今でもその寺に残っている。

解説

この故事は『水衡記(すいこうき)』や『太平御覧(たいへいぎょらん)』にも引かれており、明(みん)の張鼎思(ちょうていし)の『琅邪代酔編(ろうやだいすいへん)』にもみえるが、寺のなまえなどに異同がある。張僧繇(ちょうそうよう)は『歴代名画記(れきだいめいがき)』の著者張彦遠(ちょうげんえん)(=九世紀の人)によって、中国画史上の四大家の一人とされた人。伝記は不明だが六世紀を中心に活躍したと思われる。

類句

◆画竜(がりょう)点睛(てんせい)を欠(か)

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部