タイプライターに魅せられた男たち・第13回

フランク・エドワード・マッガリン(3)

筆者:
2011年11月17日
Caligraph No.2

マッガリンの挑戦を受けて立ったのは、シンシナティのトローブ(Louis Traub)という人物でした。トローブは、ロングリー式速記タイプライティング専門学校(Longley’s Shorthand and Typewriting Institute)というタイピスト学校を経営していて、そこで「Caligraph No.2」というタイプライターのタイピング法を教授していました。

シンシナティは、シカゴの南東にあるので「シカゴ以西」ではなかったのですが、マッガリンはトローブと1対1で戦うことにしました。期日は1888年7月25日、場所はシンシナティ6丁目ワイン通り北西角のパレスホテルビルディング16号室、グラハム式シンシナティ表音速記アカデミー(Graham’s Cincinnati Phonographic Academy)と決まりました。また、これに加えマッガリンは、メトロポリタン速記者協会(The Metropolitan Stenographers’ Association)が翌週8月1日に開催予定のタイプライターコンテストにも、参加を決めました。それと同時にマッガリンは、レミントン・スタンダード・タイプライター社アメリカン・ライティング・マシン社(「Caligraph No.2」の製造元)に対し、「メトロポリタン速記者協会主催のタイプライターコンテストにおいて、タイピスト世界一を決めたい。ついては最速のタイピストを参加させるように」との趣旨の手紙を送りつけました。

1888年7月24日、シンシナティに到着したマッガリンは、翌日にひかえたトローブとの一戦の前に、ニューヨークの『The Phonographic World』誌に宛てて、以下のような手紙を送っています。

今しがた私が聞いた噂では、シカゴを代表する速記者のデメント氏(Isaac Strange Dement)は、タイピストとしても世界一速いとのことです。しかしながら、私はそれに異論があります。つきましては、まもなく開催されるニューヨーク州速記者協会(The New York State Stenographers’ Association)の年次大会において、デメント氏に対しタイプライターで挑戦する場を設けていただきたく、ここにお願いする次第です。デメント氏も、私とのタイプライターコンテストを、熱望されると思います。

フランク・E・マッガリン

筆まめ(というよりはタイプライターまめ)だったマッガリンは、1888年の夏季休暇の間にアメリカ中のタイピストと戦うべく、あちこちに手紙を書き続けていたのです。

(フランク・エドワード・マッガリン(4)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

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