今週のことわざ

五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ)

2008年4月21日

出典

孟子(もうし)・梁恵王(りょうけいおう)・上

意味

たいして違いがない。本質的な相違はない。戦場で、五十歩逃げた者も、逃げたという点では変わりがなく、ただ、わずかな距離の差があるに過ぎないという意味。

原文

孟子対曰、王好戦。請以戦喩。塡然鼓之、兵刃既接、棄甲曳兵而走。或百歩而後止、或五十歩而後止。以五十歩、笑百歩則何如。曰、不可。直不百歩耳。是亦走也。曰、王如知此、則無民之多於隣国也。〔孟子(もうし)(こた)えて曰(いわ)く、王戦いを好む。謂う戦いを以(もっ)て喩(たと)えん。塡然(てんぜん)としてこれを鼓し、兵刃(へいじん)既に接し、甲を棄(す)て兵を曳(ひ)きて走る。或(あるい)は百歩にして後(のち)(とど)まり、或は五十歩にして後止まる。五十歩を以て百歩を笑わば則(すなわ)ち何如(いかん)、と。曰く、不可(ふか)なり。直(た)だ百歩ならざるのみ。これ亦(ま)た走るなり、と。曰く、王如(も)しこれを知らば、則ち民の隣国より多きを望むこと無(なか)れ、と。〕

訳文

(梁(りょう)の恵王(けいおう)が孟子(もうし)に、「自分は、人民に対して、いつも心をくばっている。凶作の地の人民は豊作の地に移すようにしている。これほど他の国よりも善政を行っているのに、人民は自分を慕って、各地から集まってこないのはどうしてだろう。」と言ったので、)孟子は答えた。「王様は戦争がお好きだから、戦争をたとえにして申し上げます。進軍の太鼓が鳴り、刀と刀が触れ合う接近戦になって、鎧(よろい)・甲(かぶと)や武器を捨て逃げだす者が出てきて、ある者は百歩、ある者は五十歩退却して止まったとします。このとき五十歩逃げた者が、百歩逃げた者を、自分より臆病だと言って笑ったらどうでしょうか。」王が言った。「それは間違っている。百歩逃げなかったというだけで、逃げたことには変わりがない。」孟子が言った。「王様にその道理がおわかりになるのでしたら、あなたの国の人民が、隣国より多くなることをお望みになどならないことです。(人民が苦しむのを凶作のせいにするようでは、他国の政治と大差がないのです。)」

解説

恵王(けいおう)が、凶作のとき、自分の米倉を開いて民を救済しようともせず、これを凶作のせいにしているのは、まだほんとうの善政とはいえず、それは人を殺しておいて、自分のせいではなく、凶器のせいだというようなものだといって、真の善政(=王道政治)はいかにあるべきかを説いた話である。

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部