今週のことわざ

白髪(はくはつ)三千丈(さんぜんじょう)

2008年7月28日

出典

李白(りはく)詩・秋浦歌(しゅうほノうた)・其十五

意味

大げさな誇張した表現の形容。本来は、憂いが重なって毛髪が白くなったという意味で、日本において、冒頭にあげたような意味に用いられるように変化したものと思われる。「三千丈」は、約九〇〇〇メートル、もちろん、多い、長いということを示す形容で実際の長さをいうのではない。このような表現から、誇張した言い方の代表となったのであろう。

原文

白髪三千丈、縁愁似箇長。不知明鏡裏、何処得秋霜。〔白髪(はくはつ)三千丈、愁いに縁(よ)りて箇(か)くの似(ごと)く長し。知らず明鏡の裏(うち)、何(いず)れの処(ところ)よりか秋霜(しゅうそう)を得たる。〕

訳文

乱れて伸びたこの白髪(しらが)、これも心の憂さのため、鏡に映る己(おの)が顔、どこから来たか霜(しも)のおく老いの影。

解説

李白(りはく)の晩年の作。「秋浦歌(しゅうほノうた)」は全十七首。安史(あんし)の乱(らん)のとき、李白は玄宗(げんそう)の子永王(えいおう)の部下となったが、永王と兄の粛宗(しゅくそう)とは骨肉の争いを起こし、李白も流刑となった。その折の気持ちを歌ったものと思われる。李白六十歳のころのことである。「三千丈」は単に髪の長さをいうのではなく、憂いが綿々として尽きないという意味をこめているという解釈もある。晋(しん)の時代にも、左思(さし)の「白髪賦(はくはつノふ)」、陳后山(ちんこうざん)の「白髪縁愁百尺長(はくはつよリテうれイニひゃくせきながシ)」のように類似の表現が多い。現在では憂愁の意に用いることはほとんどなく、「あの人の言い方は、万事オーバーで白髪三千丈式だ」というように、誇張したという意味に用いることが多い。原文の「似箇」は「如此」と同じで、このようにの意。「箇」は、これ、このの意味に用いる俗語である。

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部