「この服、ふつうにかわいいね」という表現は、「だれが見てもかわいい」という意味だと教えられたのは、2001年のことでした。変わった使い方が出てきたとは思いましたが、細かいニュアンスまではよく分かりませんでした。
後に、この「ふつうに」の意味について、授業で大学生たちに聞いてみました。すると、「だれが見ても」という意味でいいと言う人もいれば、「非常にではないが、わりと」の意味だと言う人、「標準程度に」だと言う人もいました。解釈がこれほど分かれるようでは、このことばは意味伝達の役に立つのかどうか、心配になります。
実際、「ふつうに」の新しい用法は、意味の取りにくい場合がよくあります。タレントの山口智充さんが、テレビ番組でクイズの答えを間違えた時、次のように言いました。
〈はずれた! ちょっと、ふつうにショックですね。〉(NHK教育「たっぷり見せます!学校放送のツボ」2004.10.30 23:00)
このせりふの意味を学生に聞いてみると、またしても意見が分かれました。「だれもがこういう場合に感じるのと同様にショックだった」「演技でなく、本当にショックだった」「ちょっとショックだった」などの意見がありました。
これらの意見は、必ずしも互いに対立するとは言えません。むしろ、ここでの「ふつうに」は、これらの意味を漠然と指すものでしょう。「だれもがごく自然に感じる程度にはショックだった」とまとめられるものです。
『三省堂国語辞典 第六版』では、これを次のように短く記しました。
〈ごく自然に考えて。わりあいに。「―に おいしい」〉
一方、程度が問題にならない場合もあります。ドラマで、ハンバーガー店の女性たちが「独身のいい男がいない」と話していると、店長が来て、一言つぶやきました。
〈ぼくもふつうに独身ですけど……。〉(日本テレビ「プリマダム」2006.4.19 22:00)
これは、「意外でも何でもなく、当然独身です」という感じです。第六版では、このような例に対応するため、もうひとつのブランチ(意味区分)を立てました。
〈当然(であるかのように)。「ぼくも―に独身ですけど」〉
この意味で、「ぼくはふつうに試験に落ちた」などと使われます。