鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その3 すてきな( )物件 第1回

筆者:
2021年9月28日

新解さんには、「すてきな( )物件」があります。この物件は、いつもより目を良く使って見て下さい。

p.544「こだわる【拘る】」

この( )で、新解さんは自分の意見を、「見てもいいし、別に見なくてもいいけれど、まあ付け加えておきますね」と、いう軽い気持ちを表現しているかのようですが、実は( )の中こそ、本当は一番伝えたいことなのです。

用例の「自説(メンツ・目先の利害・枝葉末節)に―」と、あるのは、次に紹介したい、「物の順物件」でもあります。これは、ほぐしてよく見ると、「自説にこだわる」「メンツにこだわる」「目先の利害にこだわる」「枝葉末節にこだわる」ということで、これら全てに対して、新解さんは「きっぱりと忘れるべきだ」と、考えているけれど、当人にはそれなりの理由があって、忘れることが出来ないのです。新解さんの言うことを、全然きかないのですね。新解さんも、わたしたちも見守るしかない。

p.158-159「エピソード」

世間に紹介しないと、エピソードだとわからないですね。

p.1451「ほどう【補導・輔導】」

いやー、親も悪かったらどうしましょうか。

p.135「うなる【唸る】」

そうです、それは実に大事なポイントです。

p.1263「はつもう【発毛】」

そう見えていたけれど、本当はそうではないのだ、という希望を感じる。

p.1254「はたらきもの【働(き)者】」
p.1164「なまけもの【怠け者】」

自分の周りに、怠け者がたくさんいても、働き者は何も変らずせっせと仕事に精を出せるのかな? 働き者が真面目に働くことがバカらしくなったら嫌ですね。

p.855「せっせと」
p.1077「てんさい【天才】」

そうです、そういう人っています。

(つづく)

 

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。