大規模英文データ収集・管理術

第13回 「トミイ方式」の機能と目的・1

筆者:
2011年12月5日

今まで、「トミイ方式」の目的として

何を集め、どのように整理・分類しておくと、どのような目的に活用できるか

ということを、繰り返し、述べてきました。そして、その延長として

どのような目的に活用するためには、何を集め、どのように整理・分類しておくべきであるか

ということも述べてきました。

そこでここでは、まず最初に、「機能」、「効能」、および「分類」を表示し、「機能」と「目的」を理解していただきます。

tomii13table.png

上表の「分類」欄に、7つの分類項目が示されていますが、これは、すでに何回か触れてきました、「トミイ方式」の7つの大分類です。それぞれの意味は下記のとおりです。

ABC:

収集した英例文を、その中にある当該単語をアルファベット順に分類してあるデータベースです。

50音:

収集した英例文を、その中にある当該単語を日本語に訳し、その訳語を50音順に分類してあるデータベースです。

表現:

収集した英例文を、その中にある当該単語を日本語に訳し、その訳語をあらかじめ決めてある表現別に分類してあるデータベースです。

品詞:

収集した英例文を、その中にある当該単語を品詞別に分類してあるデータベースです。

構文:

収集した英例文を、その中にある当該単語を構文別に分類してあるデータベースです。

数量:

収集した英例文を、その中にある当該数と量に関する表現を、あらかじめ決めてある数量表現別に分類してあるデータベースです。

他:

収集した英例文を、その中にある当該項目が上の6つの大分類に属していない全ての英例文を「その他」に分類してあるデータベースです。

「分類」の中の各欄に○で表示した個所がありますが、これは、それぞれの「機能」・「効能」を発揮させるためには○印で表示されている「分類」の英文データを収集すればよいことを示しており、また逆に、○印で表示されている「分類」の英文データは、それぞれの「機能」・「効能」を発揮させるために活用されることを示しています。

上表を見ながら

(1) 活用ツールとしての機能
(2) 学習ツールとしての機能
(3) 制作・発表ツールとしての機能

の3つの機能を、3回にわたり順に説明していきます。今回は「(1) 活用ツールとしての機能」です。

(1) 活用ツールとしての機能

「トミイ方式」がもともと、英文を作成する時や和英翻訳をする時、なるべくネイティブの発想に近い英語が書けるようになるために彼らの書いた英文データを収集しているわけですから、この「活用機能」が「トミイ方式」のメインの機能になります。この機能には、これ以外にもありますが、主な機能としては、以下に示すいろいろな効能があります。

(a) 和英辞典、表現辞典、参考書としての活用法

いかなる大辞典といえども、それぞれの英単語に対してすべての「意味」や「訳語」が載せられているというものではありません。ましてや、中辞典や小辞典にいたっては、おって知るべしです。そのようなとき、日頃、「このような意味や訳語は自分の持っている辞書には載っていないだろうな」とか「仮に載っていたとしても、別の表現だろうな」というものを収集し、手作りの和英辞典を作っておくと、よい言葉の選択ができることがよくあります。

もちろん、収集をし始めたたばかりで、データが100個や200個程度では、そのような機能は十分には発揮できませんが、何年も継続して収集を続けていると、思わぬ機能を発揮してくれるのが、このデータベースです。

(b) 英和辞典の補助としての活用法

英文を書いている時や和文英訳している時など、わからない日本語に出くわした時、普通、まず和英辞典で言葉を調べます。しかし、出てきた英単語をそのまま使うのではなく、その英単語がその場所に適切であるかどうか英和辞典とか英英辞典で確認し、適切であると確認してから使用しなければいけないといわれています。このような用途にうってつけのデータベースになります。

こんな嘘のような本当の話があります。

これは、昔、東大の農学部の先生と食事している時に聞いた話ですが、ある研究論文の和英翻訳を翻訳会社に出したのだそうです。翻訳されて戻ってきた翻訳を見ると、最初から酷くお粗末であったそうです。やむなく、逐一チェックをしていったところ、politelyという言葉が出てきました。そこで、元の原稿を調べてみたところ、その個所は「~を丁寧に摘果しなさい」というものであったそうです。

翻訳者は、おそらく「丁寧に」という日本語を和英辞書で調べたのでしょうが、その和英辞書では、「丁寧に」という個所の最初に出てきた英語がpolitely であったに違いありません。それを、英和辞典とか英英辞典で確認しないまま使ってしまったためにこのような珍奇な翻訳になってしまったのです。「丁寧に」を和英辞書で引いた時、carefullyという単語が出てくるかどうかかわかりません、出て来たとしても、おそらく、最後のほうだろうと思います。きっと、最初の訳に飛びついてしまい、この場合の「丁寧に」をpolitelyにしてしまったのではないかと思います。この場合の「丁寧に」は、やはりpolitelyではなくcarefullyでしょう。

(c) 単語の用法の確認用として

英文を書いている時、よく、「この動詞は前置詞をとるんだったかな?」とか、「この言葉の反意語ってなんだったかな? 接頭辞はdeかな、disかな、inかな、nonかな、unかな」などと考えてしまうことがあります。

前者の場合を例にとると、動詞の contact は A contact B. だったかな? それとも A contact with B. だったかな? とか、動詞の influence は A influence B. だったかな? それとも A influence to B. だったかな? などと迷うことがあります。そのような時、例文をたくさん集めておくと、動詞の場合には A contact B. とか A influence B. が正しく、A contact with B. とか A influence to B. などのように動詞の後ろには取らないことがわかります。後ろに前置詞を取るのは contact や influence が名詞として使われている場合で、その場合には A is in contact with B. とか A has an influence to B. などのように後ろに前置詞を使います。

後者の場合(反意語の場合)を例に取ると、possible のように誰でも知っているような単語ならば、反意語を作る場合には接頭辞 im を付け impossible とすることはよくわかっています。しかし、例えば、symmetric となると反対語を作るには、接頭辞は dis だとか、non だとか、un などのように迷ってしまいます。しかし、正しくは、a を付けて asymmetric としなければなりません。この場合は、日頃、反意語に出会ったら片っ端から収集し、「その他」という大分類の中に「反意語」という「お座敷」を作ってその中に入れておくと、肯定語に対して反意語がすぐに探せるようになります。

さらに、同じ単語が inhuman と nonhuman, imbalance と unbalance のように2つの接頭辞を取るものもあります。文章単位で収集しておくと、その言葉の前後関係でそれぞれの意味や用法がわかります。

次回は「(2) 学習ツールとしての機能」です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。