大規模英文データ収集・管理術

第14回 「トミイ方式」の機能と目的・2

筆者:
2011年12月19日

(2) 学習ツールとしての機能

せっかく収集した多くのデータが、「活用機能」だけで終わるはずありません。「トミイ方式」の、ほぼ全工程で機能を発揮してくれるのが、この「学習ツール」です。この機能や効能はいくらでもありますが、ここでは次の3つに絞って述べます。

説明に入る前に、今回初めてこの連載をお読みになる方のために、この「(2) 学習ツールとしての機能」がどこに位置しているか理解できるように、前回使用した「機能・効能・分類」表を、もう一度、ここに表示します。

主な効能には、以下の3つがあります。

(a) 収集時に頭の整理
(b) 細分化分類、パターン化の際の学習
(c) 制作されたデータを参考書として学習

(a) 収集時に頭の整理

すでに“「トミイ方式の」の変遷”で述べましたように、最初は、英文を書く時や和英翻訳をする時にネイティブの発想に近い英語が書けるようになるようにいろいろな英文データを収集していただけですが、だんだん月日が経っていくと、そこだけにとどまらず、品詞の使い方、文の構築のし方、表現のし方、数量表現のルール、ハイフンやパンクチュエーションなどなど、多岐に広がっていきました。それに伴い、データの収集時にも目が肥えていき、常に、眼(まなこ)を大きく開いていき、興味と関心のあるデータを大量に集めるようになります。言いかえると、集まった英文データを学習することよりも、問題意識をたくさん持って収集に当たることのほうが、はるかに、はるかに学習をしていることになります。

この「トミイ方式」は、よくいろいろな機会に受講生に伝授していますが、よく出る質問に、「先生、一体、何を集めたらいいのですか」というのがあります。これではスタート台以前の問題です。「何を集めるか」ではなく「何が欲しいのか」であり、結論として、簡単ですが、「その欲しいものを集めるのですよ」といことになるわけです。

収集時に何を集めたらよいのかわからないということは、眼が閉じてしまっていて、興味や関心のあるデータが「何も見えない」、すなわち「何もない」ということになります。やがて、眼を大きく開いていくと、徐々に興味や関心のあるデータが見えてきます。

眼が大きく開いてきた時の頭の整理というものには驚くほどの学習効果があります。

(b) 細分化分類、パターン化の際の学習

次は、データも十分集まり、それを中分類、小分類、細分類、極細分類していったり、分類したものをさらに各パターンに分けたりする、いわゆる「パターン化」の際の学習機能です。

筆者のように、すでにすべてのデータを40,000とか45,000の末端単位に細分類し終わっている場合には、細分化やパターン化の作業そのものは必要ありませんので、とくに細分化作業やパターン化作業が学習ツールとなるものではありませんが、まだこの工程が終わっていない人たちにとっては、この工程は、「トミイ方式」の持つ、最大の学習機能です。これこそが、筆者がよく言っているように、唯一無二の英語の独習法であって、「トミイ方式」の真髄というものです。

一例を挙げて説明します。

英文データを収集し、最初の大分類から説明していくと、なかなか本丸に到達しませんので、ここでは、大分類が「品詞別」、中分類が「前置詞」、小分類が「in」まで分類がすでになされている状態、すなわち、前置詞 in だけがまとまっている状態からさらに細分類していく状況を想定していただきます。

もともと、前置詞 in が使われている英文データと言っても、何の変哲もない用法の in を使った英文データは集めていないはずです。必ず、単なる前置詞ではなく、それ以上の意味に使われている、そのような英例文しか集めていないはずです。例えば

(i) 学校英語とは一味違うinの用法の英例文
(ii) この in の用法を使うと英語が簡潔に書けるようになる英例文
(iii) in が単なる前置詞ではなく、動詞的な意味に使われている英例文
(iv) 単なる前置詞 in が、「手段・方法」を表す意味で使われている英例文
(v) 「~が―する」とか「~が―である」などのように「~が」という限定を表している英例文

などなど、いろいろな意味や方法の in に分類でき、in の学習ができます。これほど、楽しく、効果的な英語の独習法は絶対にありません。

なお、これについては、第7回 (2) 技術翻訳の独習法としての「トミイ方式」(2011年9月12日公開)の「第1ステップ(小分類)」が参考になります。これは、大分類が「表現別」で、中分類が「影響」の場合ですが、この機会にぜひご覧ください。

(c) 制作されたデータを参考書として学習

これは、収集され、適切に分類・整理された英文データが、手作りの、自前の参考書、ハンドブック、データベースとして学習できる機能です。参考者やハンドブックという形になっていなくても、しっかりした分類ができていれば、「学習機能」のみならず、「活用機能」でも、次回述べることになっている「制作・発表」にも使うことができます。

次回は、「(3) 制作・発表ツールとしての機能」です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。