「Peerless Typewriter」は、ニューヨーク州イサカのピアレス・タイプライター社が、1895年に発売したアップストライク式タイプライターです。「Peerless Typewriter」(比類なきタイプライター)というブランド名とは裏腹に、外見は「Smith Premier No.1」に酷似しており、実際、ピアレス・タイプライター社は、スミス・プレミア・タイプライター社とユニオン・タイプライター社から、複数の特許侵害を警告されていたようです。
「Peerless Typewriter」は、大文字も小文字も数字も記号も全て一打で打つことができる、という点が特徴的でした。プラテンの下に、76本の活字棒(type bar)が円形に配置されていて、キーボードの各キーにそれぞれ対応しています。キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下にインクリボンごと叩きつけられ、紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Peerless Typewriter」は、「Smith Premier No.1」と同様、アップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができないのです。
「Peerless Typewriter」のキーボードは、76字が収録されていて、大文字小文字が全て別々のキーに配置されています。上の広告のキー配列では、キーボードの最上段は$23456789#が、その次の段はQWERTYUIOPが、その次の段はASDFGHJKL:が、その次の段はZXCVBNM?&-が、その次の段はqwertyuiopが、その次の段はasdfghjkl;が、その次の段はzxcvbnm,.'が並んでいて、最下段は、左側に%"_の3字、中央にスペースバー、右側に(/)の3字が並んでいます。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。
「Peerless Typewriter」は、当時としても、かなり短命に終わったタイプライターです。1898年には製造を中止し、ピアレス・タイプライター社の親会社だったイサカ・ガン社は、「Peerless Typewriter」に関する特許その他を、ユニオン・タイプライター社に売却しています。結果としてピアレス・タイプライター社は、スミス・プレミア・タイプライター社の一部門となり、「Peerless Typewriter」に関する様々な技術は、その後の「Smith Premier」の改良へと引き継がれたようです。