タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(66):International Typewriter (Double Type-bar Model)

筆者:
2019年10月3日
『Our Day: A Record and Review of Current Reform』1889年12月号
『Our Day: A Record and Review of Current Reform』1889年12月号

「International Typewriter」は、1889年にパリッシュ・マニュファクチャリング社が発売したアップストライク式タイプライターです。「International Typewriter」には、「Double Type-bar Model」と「Double Key-board Model」の2つのモデルが知られており、上の広告にあるのは「Double Type-bar Model」の方です。

「International Typewriter (Double Type-bar Model)」の特徴は、プラテンの下に円形に配置された76本の活字棒(type-bar)にあります。活字棒のうち、キーボードの各キーに繋がっているのは半分の38本で、繋がっている活字棒と、繋がっていない活字棒が交互に配置されています。タイプ・バスケットは二重の円形構造になっていて、内側の円形構造には活字棒76本がぶらさがっており、外側の円形構造には各キーからのシャフト38本が繋がっています。キーボード最下段左端の「CAP'S」キーを押すと、内側の円形構造が活字棒1本分だけ回転することで、キーに繋がっている活字棒と、繋がっていない活字棒が入れ替わります。これにより、38個のキーで76本の活字棒を打つ、という印字機構が実現されているのです。各キーを押すと、その時点で繋がっている活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータから見えず、プラテンを持ち上げるか、さもなくば数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。

「International Typewriter (Double Type-bar Model)」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列に近いものです。キーボードの最下段は、左端に「CAP'S」キー、真ん中にスペースキーがあります。スペースキーの左側は、小文字側にzxcが、大文字側にZXCが並んでいます。スペースキーの右側は、小文字側にvbnmが、大文字側にVBNMが並んでいます。その上の段は、小文字側にasdfghjkl,が、大文字側にASDFGHJKL?が並んでいます。その上の段は、小文字側にqwertyuiop/が、大文字側にQWERTYUIOP.が並んでいます。キーボードの最上段は、小文字側に1234567890が、大文字側に:;#$%-&'()が並んでいます。38個のキーに、76種類の文字が並んでいるのです。

「International Typewriter (Double Type-bar Model)」の発明者はクランドール(Lucien Stephen Crandall)で、製造はニューヨーク州パリッシュでおこなわれていました。クランドールは一夫多妻主義者で、複数の生活拠点があったらしく、たとえばニューヨーク州グロトンでは「Crandall New Model」を製造していました。「International Typewriter (Double Type-bar Model)」の製造はパリッシュ・マニュファクチャリング社にまかせ、クランドール自身は、さらなる発明を目指したのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。