タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(71):Contin Modèle A

筆者:
2019年12月12日
『Typewriter Topics』1922年8月号
『Typewriter Topics』1922年8月号

「Contin Modèle A」は、ルグラン(Georges Legrand)率いるコンタンスーザ社(Établissements Continsouza)が、1922年にフランスで発売したタイプライターです。パリのコンタンスーザ社は、ドレスデンのザイデル&ナウマン社の技術供与を受けており、結果として「Contin Modèle A」は、ザイデル&ナウマン社の「Ideal C」に良く似ています。

「Contin Modèle A」は、46キーのフロントストライク式タイプライターです。円弧状に配置された46本の活字棒(type arm)は、「Ideal C」とほぼ同一のデザインです。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。インクリボンは黒赤の二色になっていて、フロントパネル右側(エンブレムのすぐ右)のトグルスイッチで、色を切り替えることができます。キーを離すと、活字棒とインクリボンは元の位置に戻り、紙の前面に印字された文字が、オペレータから直接見えるようになります。活字棒の先には、活字が2つずつ付いていて、通常の状態では小文字が印字されますが、シフトキー(キーボード最下段の左右端)を押すと、プラテンが持ち上がって、大文字が印字されるようになります。また、右のシフトキーのすぐ上にはシフトロックキーがあって、シフトキーを押しっぱなしにできるので、連続した大文字や数字を打つ際には便利です。

上の広告に見える「Contin Modèle A」のキーボードは、いわゆるAZERTY配列です。最上段のキーは、大文字側に§23456789&º℮が、小文字側に!é"'(-è_çà)½が並んでいます。その次の段は、左端にバックスペースキーがあって、大文字側にAZERTYUIOP¨が、小文字側にazertyuiop^が並んでおり、右端に「TAB」キーがあります。その次の段は、大文字側に£QSDFGHJKLM%が、小文字側に$qsdfghjklmùが並んでいて、右端にシフトロックキーがあります。最下段は、両端にシフトキーがあって、大文字側は「ie」の合字に続いてWXCVBN?./+が、小文字側は「Fr.」の合字に続いてwxcvbn,;:=が並んでいます。数字の「1」と「0」は、それぞれ大文字の「I」と「O」で代用することが想定されていたようです。また、フロントパネル上部のスケール(文字数を刻んだ物差し)を開けると、中にはタブ機構が入っていて、「TAB」キーを押した際のプラテンの横移動先を、自由に設定できるようになっています。

コンタンスーザ社は、1928年3月にルイ・オベール社(Établissements Louis Aubert)と合併し、MIP社(Mécanique Industrielle de Précision)になりました。この直後、MIP社はタイプライター製造から手を引き、「Contin Modèle A」も生産終了となったのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。