タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(83):Williams No.1 (Curved Keyboard Model)

筆者:
2020年6月18日
『Lippincott's Magazine』1894年6月号
『Lippincott's Magazine』1894年6月号

「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)は、1892年頃にウィリアムズ・タイプライター社が発売したタイプライターで、独特の印字機構を有しています。ウィリアムズ(John Newton Williams)が発明したこの印字機構は、活字棒の動作が、まるでバッタが跳ぶような軌跡を描くことから、グラスホッパー・アクションと呼ばれています。28本の活字棒は、プラテンの前後に14本ずつ配置されており、それぞれが28個のキーに繋がっています。キーを押すと、対応する活字棒がインク溜めを離れ、いったん上方へと上がったあと、プラテンの上へと伸びていって、プラテンに打ち下ろされます。キーを放すと、活字棒は逆の動作で、インク溜めへと戻ります。この結果、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間にオペレータから見えるのです。

「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)では、プラテンの前後に活字棒が配置されているという構造のため、紙をプラテンにセットするのに、多少の手間がかかります。プラテンの手前(活字棒の下)に、紙を丸めて入れておく必要があるのです。また、打った後の紙はプラテンの奥に丸まって吸い込まれていくため、印字された文字は実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒だったりします。各活字棒の先には、それぞれ3種類の文字が搭載されていて、最大84種類の文字を印字できます。キーボードの左端には2種類のシフトキーがあり、手前のシフトキー(大文字)を押すとプラテンが奥に、奥のシフトキー(記号)を押すとプラテンが手前に、それぞれ移動し、各キーごとに3種類の文字が印字できるようになっているのです。

「Williams No.1」には、キーが扇状に配置されているモデル(Curved Keyboard Model)と、キーが直線的に配置されているモデル(Straight Keyboard Model)があります。上の広告は、キーが扇状に配置されているモデルで、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの上段は、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが、記号側に1234567890が並んでいます。キーボードの中段は、大文字側にASDFGHJKLが、小文字側にasdfghjklが、記号側に()¼/$_£%¾が並んでいます。キーボードの下段は、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm,-が、記号側に½'"?!:;,.が並んでいます。ピリオドとコンマがダブっているため、28キーで82種類の文字となっているのです。

「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)は、非常に先進的な設計を持つタイプライターでした。ただし、上の広告については、たとえば「ヨーロッパから3000台の注文を現金一括で受注」(we have a cash order for 3000 machines from Europe)というあたり、どうも誇張が多く含まれているように思われます。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。