「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)は、1892年頃にウィリアムズ・タイプライター社が発売したタイプライターで、独特の印字機構を有しています。ウィリアムズ(John Newton Williams)が発明したこの印字機構は、活字棒の動作が、まるでバッタが跳ぶような軌跡を描くことから、グラスホッパー・アクションと呼ばれています。28本の活字棒は、プラテンの前後に14本ずつ配置されており、それぞれが28個のキーに繋がっています。キーを押すと、対応する活字棒がインク溜めを離れ、いったん上方へと上がったあと、プラテンの上へと伸びていって、プラテンに打ち下ろされます。キーを放すと、活字棒は逆の動作で、インク溜めへと戻ります。この結果、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間にオペレータから見えるのです。
「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)では、プラテンの前後に活字棒が配置されているという構造のため、紙をプラテンにセットするのに、多少の手間がかかります。プラテンの手前(活字棒の下)に、紙を丸めて入れておく必要があるのです。また、打った後の紙はプラテンの奥に丸まって吸い込まれていくため、印字された文字は実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒だったりします。各活字棒の先には、それぞれ3種類の文字が搭載されていて、最大84種類の文字を印字できます。キーボードの左端には2種類のシフトキーがあり、手前のシフトキー(大文字)を押すとプラテンが奥に、奥のシフトキー(記号)を押すとプラテンが手前に、それぞれ移動し、各キーごとに3種類の文字が印字できるようになっているのです。
「Williams No.1」には、キーが扇状に配置されているモデル(Curved Keyboard Model)と、キーが直線的に配置されているモデル(Straight Keyboard Model)があります。上の広告は、キーが扇状に配置されているモデルで、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの上段は、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが、記号側に1234567890が並んでいます。キーボードの中段は、大文字側にASDFGHJKLが、小文字側にasdfghjklが、記号側に()¼/$_£%¾が並んでいます。キーボードの下段は、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm,-が、記号側に½'"?!:;,.が並んでいます。ピリオドとコンマがダブっているため、28キーで82種類の文字となっているのです。
「Williams No.1」(Curved Keyboard Model)は、非常に先進的な設計を持つタイプライターでした。ただし、上の広告については、たとえば「ヨーロッパから3000台の注文を現金一括で受注」(we have a cash order for 3000 machines from Europe)というあたり、どうも誇張が多く含まれているように思われます。