タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(84):Jewett Typewriter No.3

筆者:
2020年7月2日
『Munsey's Magazine』1899年3月号
『Munsey's Magazine』1899年3月号

「Jewett Typewriter No.3」は、アイオワ州デモインのデュプレクス・タイプライター社が、1896年頃に発売したアップストライク式タイプライターです。デュプレクス・タイプライター社は、1898年に社名をデュプレクス・ジュエット・タイプライター社に変更しており、上の広告は社名変更後のものです。

「Jewett Typewriter No.3」のキーボードは80字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。標準のキー配列では、キーボードの最上段は左側に()§*が、右側に/%@#が並んでいます。その次の段は"QWERTYUIOP$が、その次の段は&ASDFGHJKL:¢が、その次の段は2ZXCVBNM?_-6が、その次の段は3qwertyuiop7が、その次の段は4asdfghjkl;8が、その次の段は5zxcvbnm,.'9が、それぞれ並んでいます。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。

「Jewett Typewriter No.3」は、大文字も小文字も数字も記号も、全て一打で打つことができる、という点を売りにしていました。80本の活字棒(type bar)は、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていて、キーボードの各キーにそれぞれ対応しています。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Jewett Typewriter No.3」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができないのです。

デュプレクス・ジュエット・タイプライター社は、1899年に社名をさらにジュエット・タイプライター社に変更しています。この時点では、ジュエット(George Anson Jewett)が社長に就任しており、下の広告ではジュエット本人が、クリスマス・プレゼントに「Jewett Typewriter No.3」を薦めています。一方で、デュプレクス・ジュエット・タイプライター社のもう一つの主力製品だった「Duplex Typewriter」は、社名変更とともに生産を終了したようです。

『Lippincott's Magazine』1899年12月号
『Lippincott's Magazine』1899年12月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。