タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(85):Blickensderfer No.7

筆者:
2020年7月16日
『Commons』1898年3月号
『Commons』1898年3月号

「Blickensderfer No.7」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1897年に発売したタイプライターです。上の広告の時点では、「Blickensderfer No.7」と「Blickensderfer No.5」の販売を、弟のウィリアム(William Jacob Blickensderfer)がおこなっていたようです。

「Blickensderfer No.7」の特徴は、タイプ・ホイール(type wheel)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれていて、縦に並んだ活字3個ずつが、それぞれ28個の文字キーに対応しています。キーを押すと、このタイプ・ホイールが回転しつつ、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。

タイプ・ホイールの上列には、小文字の活字がzxkg.pwfudhiatensorlcmy,bvqjの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれていて、teがほぼプラテンの側にあります。使用頻度が高い文字ほど、回転が小さくなるように並べられているのです。タイプ・ホイールの真ん中の列には、大文字の活字がZXKG.PWFUDHIATENSORLCMY&BVQJの順序に埋め込まれています。タイプ・ホイールの下列には、記号や数字の活字が-^_(./'"!1234567890;?%¢$)@#:の順序に埋め込まれています。通常はタイプ・ホイールの上列にある小文字が印字されますが、キーボード左下の「CAP」キーを押すと、タイプ・ホイールが持ち上がって、真ん中の列の大文字が印字されるようになります。「FIG」キーを押すと、タイプ・ホイールがさらに持ち上がって、下列の記号や数字が印字されるようになります。

上の広告に見える「Blickensderfer No.7」のキーボードは、ブリッケンスデアファー独特の配列です。キーボードの上段は、小文字側にzxkgbvqjが、大文字側にZXKGBVQJが、記号側に-^_()@#:が並んでいます。キーボードの中段は、左端の少し上に「FIG」キーがあって、小文字側に.pwfulcmy,が、大文字側に.PWFULCMY&が、記号側に./'"!;?%¢$が並んでいます。キーボードの下段は、左端の少し上に「CAP」キーがあって、小文字側にdhiatensorが、大文字側にDHIATENSORが、記号側に1234567890が並んでいます。ピリオドがダブっているため、28キーで82種類の文字が搭載されているのです。

「Blickensderfer No.7」のもう一つの特徴は、巨大なスペースキーです。キーボードの下段中央「T」と「E」の間に始まるスペースキーは、そのまま左右に下段のキー全体を覆う形で広がり、あたかもキーボードの外枠であるかのような形をしています。また、大きな台座で、タイプ・ホイールの振動を吸収しています。これらの結果「Blickensderfer No.7」は、先発の「Blickensderfer No.5」に較べて、本体がかなり大きくなっているのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。