タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(92):Densmore Typewriter No.5

筆者:
2020年11月5日
『Typewriter and Phonographic World』1903年6月号
『Typewriter and Phonographic World』1903年6月号

「Densmore Typewriter No.5」は、スタードバント(James Warner Sturdevant)率いるデンスモア・タイプライター社が、1903年に発売したタイプライターです。バロン(Walter Jay Barron)の設計による「Densmore Typewriter No.5」は、ワーグナー(Franz Xavier Wagner)が発案したボールベアリング機構を、ほぼそのまま踏襲していました。

「Densmore Typewriter No.5」の印字機構は、いわゆるアップストライク式です。42本の活字棒(type bar)が、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていて、キーボードの各キーにそれぞれ対応しています。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には活字が2つずつ埋め込まれていて、キーボード最下段両端の「UPPER CASE」キーを押している間は大文字や記号が、離している間は小文字や数字が印字されます。左側の「UPPER CASE」キーの左上にはシフトロック・ノブがあって、「UPPER CASE」キーを押し下げたままにできます。その右上には「UNLOCK」キーがあって、押し下げた状態を解除できます。

「Densmore Typewriter No.5」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、左端に「UNLOCK」キーがあって、大文字側に"#$%_&'()⅛が、小文字側に23456789-⅜が並んでおり、右端に「BACK SPACE」キーがあります。次の段は、大文字側にQWERTYUIOP⅝が、小文字側にqwertyuiop⅞が並んでいます。その次の段は、大文字側にASDFGHJKL¾@が、小文字側にasdfghjkl:¢が並んでいます。キーボードの最下段は、両端に「UPPER CASE」キーがあって、大文字側にZXCVBNM?.¼が、小文字側にzxcvbnm,.½が並んでいます。ただし、イギリスや日本向けには、異なるキー配列のモデルも作られていたようです。

デンスモア・タイプライター社は、1907年にアメリカン・ライティング・マシン社に吸収合併されました。合併後はアメリカン・ライティング・マシン社が「Densmore Typewriter No.5」を販売していたのですが、それも1912年には終了したようです。

『Phonographic World and Commercial School Review』1910年1月号
『Phonographic World and Commercial School Review』1910年1月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。