『三省堂国語辞典 第六版』には、今回、「エリンギ」「マイタケ(舞茸)」といったキノコの名前が新しく収録されました。エリンギは〈太い柄(エ)に平たい かさが のる〉形、マイタケは〈花びらのような茶色の かさが集まって はえる〉形をしています。どちらも私の好物で、エリンギはいため物、マイタケはてんぷらで食べるのが好みです。
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料理に使うキノコとは別に、世の中にはあやしげなキノコもあります。昔の話ですが、1975年ごろ、「紅茶キノコ」なるものが一世を風靡(ふうび)しました。『日録20世紀 1975』(講談社)によれば、紅茶に菌を加えて発酵させてできた、キノコに似たしろものです。悪性の病気から水虫まで何にでも効くと、マスコミがこぞって宣伝しました。
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ブームはすぐ去ったため、当然のことながら、「紅茶キノコ」は『三国』に載りませんでした。では、かりにこのキノコ(?)が現在まで用いられていたとすれば、『三国』はどうしたでしょうか。やはり載せなかっただろうと思います。
『三国』は小型の現代語辞書です。中型・大型辞書と異なり、専門家などにのみ必要なことばは除いています。『三国』に載ることばは、一般の人の言語生活に必要な現代語です。ある健康食品の名前を『三国』に載せるということは、読者にその名前を知ってほしいというメッセージを与えることにもなり、宣伝活動に一役買いかねません。ですから、効果のはっきりしない健康食品を載せることには慎重を期しています。
「紅茶キノコ」から30年以上が経ちましたが、その間、キノコ類を含め、健康にいいとされる新しい食品がいくつも現れました。インターネットの検索で何百万件もヒットする有名商品もあります。名前の広まったあるキノコは、今回、『三国』の新規項目の候補になりました。そして、いったんは原稿も書かれました。でも、その後の段階で、項目から外すことになりました。その理由は、上に述べたことと同じです。
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(写真はイメージです)
選に漏れたキノコの名前は、ア……とか、メ……とかいうものです。などと書いてしまうと、それがまた一種の宣伝になるかもしれません。ここでも伏せておきましょう。
『三国』では、毒キノコの名前も項目に立っていません。これは偶然で、単に日常的に接するものがないと判断したからです。したがって、今のところ『三国』に載っているのは、マツタケやシメジを始めとして、安心して食べられるキノコばかりなのです。