『ウィズダム英和辞典』では、「読解のポイント」と題して、論理展開の把握において重要な語句をピックアップして解説を加えています。今回はそのなかでも「盲点」とも言うべき、意外な項目を2点ご紹介します。
colon (言い換え)
英和辞典でcolonを引くと一言、「コロン」と書かれているものも少なくありませんが、『ウィズダム英和辞典』では、「コロン」という訳語にとどまらず、コロンの用法までもが説明されています。semicolon、dashにも用法の説明があります。
つまり、辞書が文法書としての側面を持っているのです。
さらにご注目頂きたいのは、論理展開上の役割に関する説明がある点です。
コロンやセミコロンは単に文の切れ目を示す記号ではなく、「文と文の関係を示す機能」も持っています。具体的には
- colon:「言い換え」「例示」
- semicolon:「対比」「言い換え」
- dash:「例示」
つまりこれらは、for exampleやon the other handと同じ、論理展開を示す表現なのです。
そこでcolon、semicolon、dashの項では、それぞれの論理展開上の機能を簡単に紹介するとともに、関係する「読解のポイント」への参照を記載しました。
コロンやセミコロンの用法を含む「パンクチュエーション」は、高度な内容の文章を読み始めた学習者が一度は疑問を抱く分野のようです。
そんな学習者がコロンやセミコロンの用法を知りたいとき、文法書ではなく英和辞典を引こうと思う学習者は少ないのではないでしょうか。まして、これらの記号に論理展開上の機能があることを期待して辞書を開く人は少ないでしょう。上記のcolonの語法説明、そして「読解のポイント」としての位置づけは、かなり意表を突いた説明だと思われます。
now (時の対比)
英文で非常によくみられる論理展開のひとつに「対比」があります。そこで「読解のポイント」では、on the other HANDで「対比」について説明しています。
英文の対比表現の大きな特徴は、「対比の後半要素に力点が置かれる」場合が多い点です。対比は多くの場合、後半要素こそが本筋と関係が深く、前半要素は後半を際立たせるための「前置き」であることが少なくありません。前半要素が「譲歩」に近く、後半に対比された要素によって否定されるほどの例も多々あります。こうした後半に力点を置く対比の用法は、英語では非常に一般的ですが、日本語ではあまり意識されないため、特に注意が必要です。
しかし「読解のポイント」では、こうした通常の対比から一歩進めて、日本語から発想した際にとりわけ見えづらい対比に焦点を当てました。それは「時の対比」とも言うべき、2つの時点や期間に関する対比です。「昔」と「今」、「今」と「10年後」の対比などがこれにあたります。
こうした「時の対比」は、In former times, . . . but nowのように、明確な時の表現を置いた上で使われることもありますが、それ以上に多いのが、時制によって「時の対比」を表す方法です。例えば、過去完了形と過去形、現在完了形と現在進行形などの対比などは、論説文や新聞記事などで好んで使われます。
日本語は英語と比べて時制の認識があいまいなせいか、学習者は時制の持つニュアンスに意識を向けにくいようです。このため、「時の対比」はともすると素通りされる傾向が見られます。
そんな「時の対比」に注意を喚起すべく、『読解のポイント』では「時の対比」という項目を設け、nowの項目中で説明を加えています。
「時の対比」は、対比のなかでも特によく見られ、かつ、盲点になりやすいものですが、この点を学習者向けに強調した説明は、寡聞にして知りません。nowに掲載した「時の対比」を、逆接や譲歩、列挙と並ぶ重要な論理展開として、学習者にぜひとも認識してもらいたいと思っています。