一方、「漢字テレタイプ」の受信機は、かなり開発が難航しました。そもそも、4ミリ角の活字2304個を、どうやって受信機のプリンターに組み込むのか。谷村・鳥海・小川に緒方信二を加えた開発グループは、この難問に対して、力技とも言える印字技術を考案しました。1列あたり96個の活字を嵌め込んだ「活字輪」を高速で回転し、受信した文字コードに対応する活字を、電磁石のハンマーが叩きます。活字の裏側にはバネが埋め込まれており、叩かれた活字はバネの反動で飛び出して、印字をおこなうという仕掛けにしたのです。
さらに、24列の「活字輪」を左右に動かし、そこから1列を選び出すような機構も設計しました。このようにして、96×24=2304字を、全て自由に印字できるようにしたのです。ちなみに、「漢字テレタイプ」の受信機に使う活字そのものは、岩田母型製造所にデザインを依頼しました。朝日新聞の紙面の字体に、できる限り近づけておいた方がいい、との判断でした。
1955年8月15日、新興製作所と朝日新聞社は共同で、「漢字テレタイプ」を発表しました。当日の朝日新聞は、『漢字電信機が完成』と題した記事で、こう報道しています。
わが国通信界で長年の夢とされていた漢字電信機がこのほど完成された。日本の電信は明治初年開始以来カタカナを使用、このため読み違いなどが多く、これを漢字まじりにする研究は従来からも各方面で続けられてきた。朝日新聞社報道科学研究室でも数年前からこの研究に着手、昭和二十六年からは新興製作所谷村貞治氏と共同研究に当り、このほど実用機の完成に成功したもの。
この漢字電信機は、現在のカタカナ電信に使用されているテレプリンターの符号を改良し、漢字を現わすようにテープを変換して送受信する仕掛けで、試作機では千四百七十六種類の文字が送信でき、本式機械では二千三百四字が現わせるから、当用漢字はこれで全部送受信できる。
また一般電報に利用されることになれば、カタカナ電文から起る意味の取違えや読みづらさも解消するし、また邦文タイプにも応用することもできる。さらにまた漢字電信用テープを利用して自動モノタイプに連結、送られた通信を自動的に活字に組み上げることも考えられる。
8月17日と18日には、朝日新聞東京本社7階の講堂で、「漢字テレタイプ」の一般公開をおこないました。ただし、この時点の「漢字テレタイプ」試作機は、まだ仕様どおりには仕上がっておらず、1476字を実装するのが精一杯でした。164個のキーと、9個のボタンで、164×9=1476字しか使えなかったのです。
(谷村貞治(13)に続く)