今週のことわざ

君子(くんし)は豹変(ひょうへん)

2008年2月18日

出典

易経(えききょう)・革卦(かくか)・上六(じょうりく)―易経(えききょう)・革卦(かくか)・象伝(しょうでん)

意味

現在では「要領のよい人は、今までの態度をすぐ変えて、主義も思想も捨ててしまう。」という、いずれかといえば悪口に近い使い方をされている。しかし本来は、「優れた人間は、過ちは直ちに改め、速やかによい方向に向かう。」という評価の言葉である。原義が著しく変えられた一句である。「豹変(ひょうへん)」は、豹の毛が秋になって抜け変わり、紋様が鮮やかになることで、これを人の態度が一変することにたとえる。この句は『易経』の六十四のシンボル(=卦(か))の中の「革卦(かくか)」に出てくる句で、「革卦」は変化・革命を象徴する。卦を構成する陰陽六本の棒で表すと、「革卦」は☱☲となる。━は陽(よう)、╍は陰(いん)で、この一本一本を爻(こう)という。爻についてのそれぞれの説明を爻辞(こうじ)というが、その下から五番目の陽爻━(=九五(きゅうご)という)の爻辞に、「大人(たいじん)虎変(こへん)す」という。孔子(こうし)の作といわれる易(えき)の十翼(じゅうよく)のシンボルを説明する「象伝(しょうでん)」には、「大人は虎変すとは、その文(ぶん)(あき)らかなり。」とある。「この爻が出たら、立派な人は、自らを変革し、人々も改めさせ、革命を成功させるべきだ。それは虎(とら)が秋になると毛が抜け変わり、紋様が美しくなるようなものだ。」という意味である。この爻の上、一番上の陰爻╍(=上六(じょうりく)という)の爻辞について、「君子は豹変す。小人(しょうじん)は面(めん)を革(あらた)む。」とあり、「象伝」には、これについて、「象(しょう)に曰(いわ)く、君子は豹変すとは、その文蔚(ぶんうつ)たるなり。小人は面を革む。順にして以(もっ)て君に従うなり。」とある。「君子は時の変わるに応じて自分の誤りはきっぱり改め、豹の毛皮が秋に一変し、紋様が移り変わるようにする。小人はそういうときは、表面的に態度を改め、君子の言うとおりに従えばよい。」という意味である。この句についてはいろいろな立場からの解釈があるが、日本で現在用いられているような悪い意味はない。

原文

〈上六(じょうりく)〉上六。君子豹変。小人革面。
〈象伝(しょうでん)〉象曰。君子豹変、其文蔚也。小人革面。順以従君也。

解説

この句について魏(ぎ)の王弼(おうひつ)は、政治的な解釈を施し、大人(たいじん)は、天子・諸侯を意味し、君子は、その下にいる士大夫(したいふ)。だから、前者は虎(とら)で表し、後者はそれより小型の豹(ひょう)で表したので、天子の改革が士大夫の変革をもたらし、小人(しょうじん)(=被支配者)はそれに従うだけだという解釈をした。宋(そう)の朱子(しゅし)は聖人の感化は君子に及ぶが、小人は態度を表面的に変えるだけだという、道義的解釈を施している。

類句

◇君子(くんし)豹変(ひょうへん)◆大人(たいじん)は虎変(こへん)

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部