地域語の経済と社会 第9回
2008年 8月 9日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第9回「方言をしゃべる自販機」
飲み物の自動販売機が方言で買い方を案内してくれます。しかも、方言だけではなく、多言語社会を反映して、外国語もしゃべります(以下、アペックス社の自販機の場合)。日本語、英語(固定)に加えて4種類の言語と方言の設定が可能で、その設定は設置場所によって変えられるようになっています。方言は設置する地域に応じて、5つの方言の中から4つまで選択できるようになっています。
タッチパネル(写真1)で「関西弁」に切り替えると、「あったかい飲みもん、冷たい飲みもん、どっちか選んで、ボタン触ってな~」とお声がかかります。「好きな飲み物グループボタンに触ってな~」「好きな飲み物サイズボタンに触ってな~」「ほな、砂糖やクリームの量は自分で調節してや」「お待たせ~。出来たで~。あ! 扉は自動で閉まんねん。今日はほんま、ありがとうやで。また、来てや~」という具合です。
うっかりお金を入れないで、品物を選ぶと、「お金入れてや」「カードをこするか、お金を入れるか、二つに一つやで!」「カード入れたって~」と、最後までこまやかな応対をしてくれます。「お金入れてや~」(関西弁)は、「お金ば入れでけ」(東北弁)、「お金を入れたってちょーだい」(名古屋弁)、「お金(おかにょ)を入れてみんさい」(広島弁)、「お金ば入れてつかーさい」(博多弁)と変換されています。
一つの方言に、27通りの表現が用意されています。コーヒー、紅茶、ラムネソーダなど、飲みたいものはほとんどそろっています。夏に向けてカキ氷もあります。まさに19インチ液晶画面のタッチパネル方式による“自販機劇場”(写真2)です。
くじによるキャッシュバック機能もあるのですが、これは日本語の共通語のみで知らされます。ですから、方言に聞きほれていると、当選のランプは消えてしまい、せっかくのキャッシュバックを逃すことになるので、ご用心とのこと。ボタンを押してから飲み物が出来上がるまで、自販機が次々としゃべり続けるので、待つ時間を全く感じさせません。
方言をしゃべる自販機を提供しているのは、筆者が知る範囲で2社です。まず、ダイドードリンコが缶入り飲み物の自販機を2003年に関西弁で開発しました。順番は、共通語(2000年)、関西弁(2003年)、外国語(2005年中国語・英語・ポルトガル語)、津軽弁・名古屋弁・博多弁(2006年)、広島弁(2007年)、京都弁(2008年予定)の順です。
続いて、アペックスがカップ式自販機を2005年に開発しました。アペックスでは、まず、日本語(共通語)と外国語(英語、ポルトガル語、韓国語、中国語)で販売を開始しました。ついで、地方色を楽しんでもらおうと、関西弁、東北弁、名古屋弁、広島弁、博多弁を加えました。
方言の言語経済力は、2社とも関西弁がトップ、2位以下は、東北弁(津軽弁)、名古屋弁、博多弁、広島弁とベスト5は一致しています。
とにかく楽しくて、自販機の前を立ち去りがたくなります。自販機の前でにやにやして、順番をゆずらない人を見かけたら、それはまちがいなく方言をしゃべる自販機です。
すべての方言を聞こうと思ったら、3、4日、眠れないほどのコーヒーを飲まなければならないから、念のため。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2008年 8月 9日








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