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『三省堂国語辞典』のすすめ その95

2009年 11月 25日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

三国の説明、けっこう足で書いてます。

恥ずかしくて赤くなる
【恥ずかしくて赤くなる】

 「顔が広い」「目に入れても痛くない」など、『三省堂国語辞典 第六版』には約4000の慣用句が入っています。「慣用」というからには昔から使われているようですが、新しい慣用句もあります。また、あまりにもなじみすぎているせいか、これまでの辞書に漏れていた慣用句もあります。『三国』では、そうした慣用句の発見に努めています。

 変わったところでは、「赤くなる」という慣用句が載っています(1982年の第三版から)。こんなものが載るなら、「白くなる」「高くなる」など、何でも載せてよさそうですが、「赤くなる」は、特に恥ずかしいときの顔色について言うので、慣用句と認められます。「青くなる」も、おそれたり心配したりしたときに使う慣用句です。これらを載せたのは『三国』が最初ではありませんが、今出ている国語辞典の中では早いほうでしょう。

どの口が言うのか
【どの口が言うのか】

 今回の第六版でも、慣用句を増補しました。たとえば、「どの口が(で)言うのか」ということばは、まだ載せている辞書はあまりないはずです。こんなふうに使われます。

 〈〔自分は自信がないくせに〕「私がついてます」って、どの口が言えたんでしょうか。〉(NHK「連続テレビ小説・ちりとてちん」2007.10.26 8:15)。

 言いかえれば、「よくもずうずうしく言うものだ」ということです。この言い方は古く、尾崎紅葉『続金色夜叉』(1902年)にも、〈「間さん、貴方はその訳を御存無いと有仰るのですか、どの口で有仰るのですか」〉と出てきますから、辞書に載ってもいいことばです。

足で書いた文章
【足で書いた文章】

 あるいは、「足で書く」(歩きまわって調べたことをもとに文章を書く)ということばもおもしろいと思うのですが、辞書にはあまり見えません。これも、今回の版に収録しました。『三国』の編集主幹だった見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)も使っています。

 〈「日本語の現場」という続きものは足で書いた、いい企画記事だと思います。(『辞書と日本語』玉川大学出版部 1977 p.137)

 国立国語研究所の「『太陽』コーパス」では、1925年の記事に〈僕の紀行文だけは、これでほんたうに足で書くつもりで、〉とありますから、やはり古い言い方のようです。

 最近よく使われる慣用句には、「空気を読む」などがあります。第六版では、「読む」の用例に「その場の空気を読む」を加えましたが、項目に立ててもよかったかもしれません。次の版で候補になりそうな新しい慣用句は、手元にけっこう集まっています。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

2009年 11月 25日