『英語談話表現辞典』覚え書き

(33) つなぎ語:まとめ表現

筆者:
2010年11月11日

前回まで反論を考えてきましたが、今回はそれまでの話をまとめる表現を考えてみます。

日本語で「一言で言えば」という表現がありますが、英語でも in a word という文字通りの表現があります。残念ながら本辞典では立項されていませんので、三省堂コーパスからの用例を参考に記述してみます。この表現の基本はそのあとに一語が続くことです。

1 〈自らの話の中で〉一言で言えば、つまり、要するに:If the boy was not legally dead, then removing the heart would be, in a word, murder. その子が法律上の死に該当しているのでなければ、その心臓を摘出することは、一言で言えば、殺人である。
2〈質問に答えて〉一言で言えば、詳しいことは省いて、つまり:‘Do you disagree with the decision?’ ‘In a word yes.’「決定には反対ですか」「一言で言えば、そうです」

特に第2例のような使い方は「言いたいことはいろいろあるが」という含みがあることを伝えます。また、次例のように、それまでの主張、意見をまとめて述べることにも用いられます。

3〈前文をまとめて〉つまり、要するに:Roger Moore failed to convince audiences that he was a successor to the role of James Bond. In a word, he simply lacked the magic of Sean Connery. ロジャー・ムーアはジェームズ・ボンド役を受け継いだということを観客に納得させることはできなかった。要するに、彼にはショーン・コネリーがもっていた魅力がなかったということだ。

「一言」ではありませんが、in brief もまとめて簡潔に表現する働きがあります。次は本辞典からの引用です。

1 つまり, 要するに(◆文頭で):That is the situation with the company, gentlemen. In brief, we must change our business strategy or we will go bankrupt. それが会社の現状なのだ, 諸君. 要するに, 企業戦略を変えなければ倒産するということだ.

さらに、in brief は文尾に置くこともできます。

2 要約して, かいつまんで(◆文尾で):I’d like to comment on the report in brief, please. その報告書について手短にコメントしたいのですが / And now for the news in brief. 続いてニュースを手短にお伝えします.

また、in a nutshell という語句もまとめ表現としてよく使われます。同じく本辞典からの引用です。

1 簡潔に言うと, 要するに:And that, in a nutshell, is the answer to your question. それで, 要するに, それがあなたの質問に対する答えです.
3 (いろいろ言いたいことはあるが)つまり:I’ve told you the whole story now. In a nutshell, he doesn’t want to marry me next week. 以上洗いざらいお話しました. 要するに, 彼は来週私と結婚式を挙げたくないということなのです.

この延長線上に、言いにくいことを口にするような状況にも用いられます。

2 〈話し手の決心を述べて〉つまり:In a nutshell, I want to stay in Japan for another year. つまり, 私はもう1年日本に滞在したいのです.
4 〈うまくことばにならなくて〉えー つまり:《生徒が先生に言い訳して》 Ma’am, I couldn’t study at all last night because I had many things to do, washing-up, cleaning the rooms …, in a nutshell, I was busy. 先生, 昨夜はいろいろあって全然勉強できなかったのです. 食器洗いや掃除など…えー, つまり, 時間がなかったのです.

語義2ではほのめかしてはいても言いにくかった本心を述べている状況が考えられます。語義4はそれ以上言い訳が思いつかなくて、単純な言い方で終わっている例です。

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

編集部から

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