漢字の現在:中学生と「竜」
2011年 11月 4日 金曜日 筆者: 笹原 宏之漢字の現在 第142回 中学生と「竜」
前回の「02娘01」などは、プリクラなどで健在のようだ。
「仲仔」(なかこ)もまた仲良しの意で使うそうだ。さすが現役の中2女子だ。しかし、大学生になると、もう古い、誰も使っていない、なんていう。が、それはそういう層を脱したための感想にすぎない。このように同時代人であっても、僅かに層を異にするだけで、意識は実態と乖離するのだ。古くなったのは表記の方ではない。情報が氾濫する現代においても、このような誤解がはびこる。まして古代においては、同時代人の発言といえども、扱いには十分な検討と注意が必要なことがうかがえるであろう。
一番画数の多い漢字は何か。2人が質問してきた。多感な小学生も興味を持つようでよく尋ねてくるテーマだ。私も、当時は知りたいことの一つだった。「たいと」だか「おとど」という男子中学生がいた。入門にふさわしい60画台から、70画台、80画台の字をいくつも書けば時間が長びいてしまうので、ちょうど上梓したばかりの『漢字の現在』を、図書館で読むことをおススメしておくにとどめた。受験勉強も始まろうかという今、読んでくれただろうか。
辞書は、便利なものだし、有益な情報を得やすいものである。しかし、漢字に関しては情報が満ち溢れているとは限らない。ことに字体についてはそうで、世間に出回っている「龍」と「竜」についても、限られた紙面の中で、旧字体、新字体などのレッテルしか書かれていない(それもときに記号化されている)ことがほとんどだ。国語も漢和も、これらの字を中黒「・」で結んだり、丸括弧「( )」で示したりするくらいで、現実のコノテーションやコロケーションについては情報が皆無か、まれに付されたとしても極めて少ない。
大きく分けて、この2つの字体が世上での用例に偏りを持っている。ファンタジー小説では、両字体を別の物を指すために区別して使っているものさえもある。それぞれの字体と、そうした文脈の中で接触する。
これらの事象が個々人の意識と違和感なく結びつき、みずからも分けて使用しようとする意識を醸成し、実際に使ってみるという経験を生むのだろう。内省により次の意見が飛び出した。世代的に見て、ドラゴンボールやポケモンの影響もありそうだ。
大きい・小さい
長い・短い
本物でかっこいい・かわいいキャラクター
「きょうりゅうのみぶんの差」というのも、単語の選び方が中学生らしい。「本物」というのは、実在を意味するのだろうか。
強い・弱々しい
いかつい・かわいい
かっこよさそう・弱そう
怖い・やさしい
悪い(災害をもたらす)・悪くない
ストーリーやジャンルと絡めるものもあった。
伝説・昔話
伝説・生物
神話・水の中
最後の記述の後者は、かつてのネッシーなど実在しそうだというイメージなのだろうか。
名詞と固有名詞という、使用される品詞の差を見出した生徒もいる。
想像上・地名などそれ以外
名前で使う・使わない
名前・地名
音訓という読みの差を意識した解答もあった。
りゅう・たつ
常用漢字表に基づく字体の「新・旧」に言及するものもあった。「字が新しい・古い」としたのは、誤解ではなく、順不同に記しただけかもしれない。大学生となると、字が発生した時期の古さの差にまで言及する者がある。別字意識とは異なる認識といえる。
旧字・新字
そして、洋の東西で姿が異なることと絡めた答えもいくつも提示された。
東洋の龍・西洋のドラゴン
中国の羽なし・ヨーロッパの羽あり
外国・日本
下記もそのイメージの一端であろう。大学生では、竜は火を噴くなどという意見も出る。先の大小・強弱、そしてジャンル、品詞、音訓、字体までが相互に連関をもっているように思えてくる。
空飛ぶ・歩く
つばさが生えてて大きい・青竜
うろこが多い・少ない
中には、逆のイメージを記す生徒も僅かにいたが、「ボスクラス」というだけの記述は「龍」のような気もするが、メディアによっては「竜」かもしれない。実際にその瞬間に思い描いたのはどちらだったのだろう。「シェンロン」とだけあるのは、アニメ「ドラゴンボール」に登場する、その名の通り中国風の神龍のことだろう。これは、上記の傾向から、「龍」のほうを指したものと思われた。
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【筆者プロフィール】
笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』(三省堂)、『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)、編著に『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂)などがある。最新刊は、この連載がもととなった『漢字の現在』(三省堂、2011年8月刊行)。
【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「中学生の文字」でした。
この連載への質問、また「ここでこんな字が使われていた」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「漢字の現在」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2011年 11月 4日







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