地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第238回 日高貢一郎さん:方言カレンダー

2013年1月26日

新しい年2013年(平成25年)が明けて、早くもひと月が過ぎようとしています。
 暦も近年は、1年の全12か月が1枚に記載されたものや、ひと月またはふた月が一覧できるような「カレンダー形式」のものが多くなり、昔のような、1日ごとに剥いでいく、いわゆる「日めくり式」の暦はほとんど見なくなってしまいました。

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【写真1】 「日本の方言」カレンダー(1月 絵:近藤和世)
【写真1】「日本の方言」カレンダー
(1月 絵:近藤和世)

各地の方言を取り上げた、「方言カレンダー」もいろいろと作られているようですが、そのひとつに、国立国語研究所名誉所員の佐藤亮一さんの監修になる「日本の方言」カレンダーがあります。(第170回で、新潟県長岡市の「方言カレンダー」を紹介

折りたたむと、縦15cm×横21cmのコンパクトな大きさですが、実際にはそれを開いて壁などに掛けて使います。作ったのは「マイケア」という健康食品の会社で、10万部作成したということです。

各月の絵は、3人のイラストレーターが描き、その絵にふさわしい「方言」が一語、上段に大きく示され、下段には小さい字で、関連する語が10語~10数語挙げられています。

佐藤さんによると、制作に当たっては、次のような苦労があったということです。

主要部分(毎月の絵と方言)は企画・制作者(凸版印刷)が方言を選びましたが、用例の大部分と関連語(その他の各地の方言)はすべて私が選びました。47都道府県をまんべんなくという要望でしたので大変でした。私が 監修した『標準語引き 日本方言辞典』(小学館)を全面的に利用し,『都道府県別 全国方言辞典』(三省堂)も参考にしました。

1月の例は、たくさんのおせち料理を囲んで家族がそれを食べており、下の段には味についての関連語が並んでいます。

愛知県 「うみゃあ」 意味:美味しい    
    「おせち、うみゃあ」(おせち、美味しい)

■甘い    んめー(秋田県) あまちころい(和歌山県)
      あまったらしー(島根県)
■塩辛い   おっぱい(茨城県) しょっぱやい(山梨県)
      くどい(石川県) しおはい(高知県)
■酸っぱい  すっけ(山形県) すっすい(富山県)
      すい(岐阜県) ぎすい(香川県) 

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【写真2】「日本の方言」カレンダー(2月 絵:うちべけい))
【写真2】「日本の方言」カレンダー
(2月 絵:うちべけい)

2⽉以降は、次のようになっています。
2月 青森県「あずましい」(意味:心地いい、気持ちいい) 
3月 広島県「はぶてる」(すねる) 
4月 香川県「お腹がおきた」(お腹いっぱい) 
5月 山梨県「ぼこ」(子ども) 
6月 京都府「いらう」(触る、いじる) 
7月 沖縄県「はいさい/はいたい」(こんにちは) 
8月 岡山県「ぼっけぇでけぇ」(すごく大きい) 
9月 福島県「さすけね」(大丈夫よ) 
10月 鹿児島県「おじゃったもんせ」(いらっしゃいませ) 
11月 栃木県「こわい」(疲れた) 
12月 北海道「したっけね」(じゃあね)

毎月変わるこれらの方言(=代表語12語+関連語12か月で計144語。合計156語)をながめているうちに、次々に月日が流れていき、そのようにしてまた1年が過ぎて行きます。

ことしもどうぞよい年でありますように…。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。