地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第271回 田中宣廣さん:公務員募集の方言活用

筆者:
2013年9月14日

この連載では,これまで役所による方言の拡張活用例を多数報告してきました(第13回第101回,他)。今回は,公務員募集のポスターやチラシでの方言メッセージです。

役所のポスターは,正規の公文書でなくても,公的な性格があります。そこに方言を意識的に使用するのは,近年の傾向です。今回は,3府県の例を紹介します。

【写真1】平成23年大阪府警察官募集
【写真1】平成23年大阪府警察官募集
【写真2】平成23年宮城県・仙台市教員募集
【写真2】平成23年宮城県・仙台市教員募集
【写真3】平成25年秋田県警察官募集
【写真3】平成25年秋田県警察官募集

はじめは,平成23年の大阪府警察官募集ポスターです【写真1】。「ごめんですんだら 警察いらんわ!!」のフレーズは,これを声に出すとき,自然と大阪方言のアクセントになってしまうほど,ピタリとはまっています。大阪府警察では,平成16年度募集に「ほんまはな,おかあちゃんも,おとうちゃんも,ぼくが守りたいねん。」,本年度に「何でも聞いてや」と,合計3度大阪方言を活用しています。なお,大阪府警察の警察官採用のウェブサイト(https://www.police.pref.osaka.jp/06saiyo/keikan/annai/index.html)には,「警察官採用ポスターの歴史」もあり,画像は小さいものの,昭和40(1965)年からのポスターが閲覧できます。

次に,平成23年の宮城県と仙台市の教員募集のパンフレットです【写真2】。「これが宮城だっちゃ!」の方言メッセージが,伊達政宗の絵とともにカット的に使われています。

おしまいに,今年の秋田県警察の警察官募集です【写真3】。ポスターのデザインでも優れた図案です。最初に目を引かせるところに,大きく秋田の方言で,秋田を象徴するフレーズを出しました。「悪い奴はいねが!?」で,なまはげの「悪ー子(わりーご)はいねーがー」のセリフが元ですね。しかも,「見切れ」の技法により,メッセージの両端を切り(スキャンのミスではありません),メッセージをより大きく感じさせています。空いたスペースになまはげの白バイ警官をカットに入れています。方言の拡張活用では,前の2例は,地域色を出すための脇役ですが,今年の秋田県警察は,「悪い奴はいねが」が主役です。今年の採用案内は,ウェブサイト//www.police.pref.akita.jp/kenkei/saiyo/pdf/25pamphlet.pdfでみることができます。

皆さんお住まいのところでも,公務員募集に方言の活用例があるでしょうか? 学校内や街の掲示板を気をつけてみてみましょう。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。