地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第296回 田中宣廣さん: 東北弁のIC乗車カード登場

筆者:
2014年3月15日

《お知らせ》
 この連載は,もうすぐ6周年です。第301回から少し模様替えをします。詳しくは,また説明します。

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さて,方言ネーミングのIC乗車カードについて「第38回」で取り上げられました。IC乗車カードの最初は,SUICA{スイカ:JR東日本:2001(平成3)年11月使用開始}です。そのネーミングは,改札口を「スイスイ」通る「カード」からで,方言とは無関係です。(開発者によると「Super Urban Intelligent Card」がもとのようです)

SUICAに続き,各地で同様のカードが多種発行されています〔注〕。「第38回」で紹介のとおり,方言ネーミングのものも出ています。icoca{イコカ:JR西日本:2003(平成5)年~},SUGOCA{スゴカ:JR九州:2009(平成21)年~},はやかけん{福岡市交通局:2009年(平成21)年~}です。すぐあとに,Ecomyca{エコマイカ:富山地方鉄道:2009(平成21)年~}も出ました。

【写真1】icsca(仙台市交通局の発表より)
【写真1】icsca(仙台市交通局の発表より)

そこに新たに東北弁のものが加わります。2013(平成25)年11月に,仙台市交通局から発表されました(同局の発表→//www.kotsu.city.sendai.jp/iccard/meisyo/kettei/pdf/icmeisyou.pdf)。仙台方言のicsca(イクスカ)です【写真1】。icscaは,仙台(他の東北地方でも)の方言からで,「行きますか?」の意味です。「〇〇スカ」は,「〇〇カ」よりも丁寧な質問の表現です。同局の発表では「英語の『イクスカーション(小旅行、遠足:excursion)』という意味も含みます」ということです。今年2月26日には,カードのデザインが発表されました(同→//www.kotsu.city.sendai.jp/iccard/news/design/pdf/140226_design.pdf)。スペリングと文字の色遣いは,SUGOCA同様「IC」の意識です。

来年に予定の仙台市営地下鉄東西線の開通を前に,利用者の利便性が高まることでしょう。関西~九州~富山に継いで,東北弁の方言ネーミングのIC乗車カードは,東北に住む者として,とても喜ばしいことです。

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〔注〕IC乗車カードの種類の多さと利用地区の全国展開のよくわかる地図が,関西のPiTaPaのポスターに示されています。各地の「いらっしゃいませ」の方言を組み合わせたものとなっていますので,これ自体も,この研究の資料です【写真2】。

【写真2】PiTaPaと全国各地の「いらっしゃいませ」(京都市地下鉄構内にて)
【写真2】PiTaPaと全国各地の「いらっしゃいませ」(京都市地下鉄構内にて)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。