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広告の中のタイプライター(29):Hartford Typewriter

2018年 3月 29日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Art Education』1895年4月号

『Art Education』1895年4月号
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「Hartford Typewriter」は、ハートフォード・タイプライター社が、1894年に製造・販売を開始したタイプライターです。当時、コネティカット州ハートフォードでは、アメリカン・ライティング・マシン社が「Caligraph No.2」を製造・販売していたのですが、同社にいたフェアフィールド(John M. Fairfield)が中心となって、新たなタイプライター会社であるハートフォード・タイプライター社を設立しました。そのため、ハートフォード・タイプライター社は、本社をニューヨークに置いていたものの、生産拠点はハートフォードにありました。

「Hartford Typewriter」のキーボードは、76個のキーが6段に並んでいます。キー配列は基本的にはQWERTYですが、大文字小文字それぞれに別々のキーが準備されています。キーボード最上段は“QWERTYUIOP()と並んでおり、次の段は&ASDFGHJKL:$/と、その次の段は2ZXCVBNM?_·6と、その次の段は3qwertyuiop78と、その次の段は4asdfghjkl;9と、最下段は5zxcvbnm,.’%と並んでいます。数字の0は大文字の「O」で、数字の1は大文字の「I」か小文字の「l」で、それぞれ代用したようです。

「Hartford Typewriter」の活字棒(type bar)は76本あり、それら76本が全て、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていました。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Hartford Typewriter」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができませんでした。

「Hartford Typewriter」の最大の売りは、50ドルという低価格にありました。当時のタイプライターとしては、破格ともいえる値段だったのです。しかも、次のモデルである「Hartford Typewriter No.2」においても、ハートフォード・タイプライター社は、この低価格路線を維持しました。ただし、資金繰りは非常に苦しく、開発費などを捻出できなかったのか、「Hartford Typewriter No.2」は「Hartford Typewriter」とほとんど同一の設計だったようです。

『Frederick News』1897年1月29日号

『Frederick News』1897年1月29日号
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【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

2018年 3月 29日