« 広告の中のタイプライター(32):Remington Standard Typewriter No.2 - 『日本国語大辞典』をよむ―第34回 「に同じ」 »

フィールド言語学への誘い:ザンジバル編 第8回 フィールドでの生活

2018年 5月 18日 金曜日 筆者: 古本 真

フィールド言語学への誘い:ザンジバル編 第8回 フィールドでの生活

 現在[注1]、調査のためザンジバルに滞在中です。今回は、フィールドでの生活がどんなものであるかを知ってもらうために、村でのある1日の生活を紹介したいと思います。

6:00 a.m.:起床
モスクから響くアザーン(お祈りの時間を知らせる合図)、夜明けを告げる鶏の鳴き声、起き出してきた家の人たちの物音で目を覚ます。ザンジバルの朝は早い。この時間は、メールのチェック、書きかけの論文の修正、朝の調査の準備(あらかじめ用意してきた質問事項の見直し)を行う。

8:30 a.m.:チャイ①(朝ごはん)
家のお母さんが用意してくれた朝ごはんを食べる。この日のメニューは、ふかしたサツマイモ、トマトの炒めもの、それとあまり香りがしないけど砂糖のたくさん入った紅茶。血糖値が急に上がって眠気に襲われる。ちなみに「チャイ (chai)」 は、お茶だけでなく軽食も指す。

9:30 a.m.:調査①
いつものおじさんのところに調査に行く。このおじさんには、ずっと前から調査に協力してもらっている。昨日のうちに電話でアポをとっておいた。調査では、用意してきた例文が自然であるかを確認したり、文や語の発音をしてもらう。調査時間は大体いつも90分。これくらいがお互いの体力と集中力の限界。

0:00 p.m.:調査のまとめ
子供たちから「写真撮って」攻撃にあったり、道中出会った大人たちに挨拶をしながら帰宅。家に着くと、パソコンを開き音声データを保存して、この日の調査で確認した文、調査の最中に新たにでてきた語や表現を記録する。こうした作業は、できるだけ早くやっておいたほうがいい。確認し忘れたことがあれば、次の日の調査で聞くことができるし、ノートの半端なメモからでも何を聞いたかすぐに思い出せる。日本に帰ってからまとめてやろうと思っても、何を聞いたかなかなか思い出すことはできない。人間は忘れる生き物である。なにより汚いメモをみるなんて、めんどくさくてあとになったら絶対やらない。

1:00 p.m.:チャイ②
調査のまとめをしてるときに、近所のおばさんから牛乳を売りつけられる(1.5リットルで約100円)。その牛乳に砂糖をいれて沸かしてもらい、朝と同じサツマイモとトマトの炒め物でチャイ(軽食)をとる。日本の昼食にあたる時間帯に、簡単な食事をとることが多い。

1:30 p.m.:昼寝
作業がひと段落したところで昼寝。

3:00 p.m.:床屋に行く
家の子供の自転車に乗せてもらって、床屋に行く。昨日村に着いてから、家のお母さんや隣の家のおばさんからしきりに「いつ髪を切りに行くの」と聞かれる。ここでは、男の長い髪は好まれないらしい。水浴びをするにも短い方が都合がいい。髪型はいつも通り、ジェラード(イングランドのサッカー選手)風。最初にこの床屋に来た時は、壁に貼られたスポーツ選手の写真の中からモデルとしてジェラードを選んだ。こんな写真は、ザンジバルのどこの床屋にも貼られている。ちなみにスワヒリ語で髪の多寡は、「長い」「短い」ではなく、「大きい」「小さい」という形容詞で表される。


ザンジバルの田舎の床屋

4:00 p.m.:知り合いに挨拶
床屋の近くに住む知り合いのところに行って、村に来たことを伝える。

5:00 p.m.:食事
家に帰って食事をとる。今日のメニューは、ダガー(小魚)のスープと白飯。白飯からはココナツの香りがする。米は、ココナツの削りカスを濾(こ) して絞りだされた水と塩をいれて炊かれる。1日のメインの食事は、午後2時から4時くらいにとることが多い。この日は出かけていたためちょっと遅め。

8:00 p.m.:調査②
隣の家に住むおばさん(家のお父さんのお姉さん)と発音の調査。ただひたすら用意してきた文を発音してもらう。退屈な調査だからか、おばさんは時折うつらうつらして、発音が曖昧になることもしばしば。時間も遅いので、1時間ほどで調査を切り上げる。この日は、近くの井戸掘りをみんなで見物していて調査を始めるのが遅れた。明日はもう少し早く始められるだろうか。

9:00 p.m.:チャイ③
寝る前にその日の最後の食事をとる。この日は昼の残りのダガーのスープとパンと紅茶。

10:00 p.m.:就寝

コラム5:1時は7時?

スワヒリ語で時間は1から12までの数字とsaa「時」という語を組み合わせて表されます。ただし、私たちが言いたい時間は、数字とこのsaaを組み合わせるだけでは言えません。例えば、1はmojaと言いますが、ザンジバルの人とsaa moja(時を表す語と数字の順番は日本語と逆です)に待ち合わせをしても、おそらく1時にその人には会うことはできないでしょう。これは、スワヒリ語で表される時間と、私たちが使う時間表現との間には、6時間の差があるためです。スワヒリ語で、saa mojaと言った場合、それは朝か晩の7時を指します。このような時間表現が使われている正確な理由は不明ですが、朝と晩の7時に最初の数字1が、6時に最後の数字12が割り当てられていることから、1日を太陽が出ている時間(昼間)と、沈んでいる時間(夜間)に分けていることがみてとれます。

* * *

[注]

  1. この記事の執筆時(2017年10月頃)

◆この連載の目次は⇒「フィールド言語学への誘い:ザンジバル編 」目次へ

【筆者プロフィール】

■古本真(ふるもと・まこと)

1986年生まれ、静岡県出身。大阪大学・日本学術振興会特別研究員PD。専門はフィールド言語学。2012年からタンザニアのザンジバル・ウングジャ島でのフィールドワークを始め、スワヒリ語の地域変種(方言)について調査・研究を行っている。
最近嬉しかったことは、自分の写真がフィールドのママのWhatsApp(ショートメッセージのアプリ)のプロフィールになっていたこと。

* * *

【編集部から】

今回はフィールド調査中の古本さんの生活を紹介していただきました。メールをチェックしたり、調査結果をまとめたり、一見、日本での研究生活と大きくは変わらないようです。しかし、近所の人に到着の挨拶をしたり、子供たちの「写真撮って」攻撃にあったり、日本での生活よりも人に会ったり話したりする機会が多いみたいですね。来月は連載をお休みし、次回は7月の第3金曜日に公開します。どうぞお楽しみに。

2018年 5月 18日