飲み物の自動販売機が方言で買い方を案内してくれます。しかも、方言だけではなく、多言語社会を反映して、外国語もしゃべります(以下、アペックス社の自販機の場合)。日本語、英語(固定)に加えて4種類の言語と方言の設定が可能で、その設定は設置場所によって変えられるようになっています。方言は設置する地域に応じて、5つの方言の中から4つまで選択できるようになっています。
タッチパネル(写真1)で「関西弁」に切り替えると、「あったかい飲みもん、冷たい飲みもん、どっちか選んで、ボタン触ってな~」とお声がかかります。「好きな飲み物グループボタンに触ってな~」「好きな飲み物サイズボタンに触ってな~」「ほな、砂糖やクリームの量は自分で調節してや」「お待たせ~。出来たで~。あ! 扉は自動で閉まんねん。今日はほんま、ありがとうやで。また、来てや~」という具合です。
うっかりお金を入れないで、品物を選ぶと、「お金入れてや」「カードをこするか、お金を入れるか、二つに一つやで!」「カード入れたって~」と、最後までこまやかな応対をしてくれます。「お金入れてや~」(関西弁)は、「お金ば入れでけ」(東北弁)、「お金を入れたってちょーだい」(名古屋弁)、「お金(おかにょ)を入れてみんさい」(広島弁)、「お金ば入れてつかーさい」(博多弁)と変換されています。
一つの方言に、27通りの表現が用意されています。コーヒー、紅茶、ラムネソーダなど、飲みたいものはほとんどそろっています。夏に向けてカキ氷もあります。まさに19インチ液晶画面のタッチパネル方式による“自販機劇場”(写真2)です。
くじによるキャッシュバック機能もあるのですが、これは日本語の共通語のみで知らされます。ですから、方言に聞きほれていると、当選のランプは消えてしまい、せっかくのキャッシュバックを逃すことになるので、ご用心とのこと。ボタンを押してから飲み物が出来上がるまで、自販機が次々としゃべり続けるので、待つ時間を全く感じさせません。
方言をしゃべる自販機を提供しているのは、筆者が知る範囲で2社です。まず、ダイドードリンコが缶入り飲み物の自販機を2003年に関西弁で開発しました。順番は、共通語(2000年)、関西弁(2003年)、外国語(2005年中国語・英語・ポルトガル語)、津軽弁・名古屋弁・博多弁(2006年)、広島弁(2007年)、京都弁(2008年予定)の順です。
続いて、アペックスがカップ式自販機を2005年に開発しました。アペックスでは、まず、日本語(共通語)と外国語(英語、ポルトガル語、韓国語、中国語)で販売を開始しました。ついで、地方色を楽しんでもらおうと、関西弁、東北弁、名古屋弁、広島弁、博多弁を加えました。
方言の言語経済力は、2社とも関西弁がトップ、2位以下は、東北弁(津軽弁)、名古屋弁、博多弁、広島弁とベスト5は一致しています。
とにかく楽しくて、自販機の前を立ち去りがたくなります。自販機の前でにやにやして、順番をゆずらない人を見かけたら、それはまちがいなく方言をしゃべる自販機です。
すべての方言を聞こうと思ったら、3、4日、眠れないほどのコーヒーを飲まなければならないから、念のため。