地域語、方言の使われ方について、以前は、足を運んで確かめたのですが、最近のインターネット検索の発達のおかげで、座っていても調べられます。しかも地理的な広がりと歴史的背景がすぐに分かります。昔の小さな地域差がその後世界的な違いに発展した例があります。その一つdrug storeを取り上げてみましょう。
最近街で「ドラッグ(ストア)」と名乗る店をよく見ます。Google trends(グーグルトレンド //www.google.co.jp/trends/)という検索エンジンを画面に呼び出して、検索窓に「ドラッグストア」と入れると、グラフと地図が出ます(図は省略)。確かに最近8年間に増えています。地域を日本に指定すると、県別の地図も出ます。大都市で多く使われます。
次に世界全体を見ましょう。英語では綴り方がいくつかあります。検索窓に「drugstore, drug-store, drug store」を入れて、世界地図を見ると、アメリカ(とフィリピン)に多いことが分かります【図1】。日本の「ドラッグストア」という呼び方はアメリカ英語を取り入れたものです。
最近考察できる時間軸が一気に長くなりました。Google Ngram Viewer(グーグルエヌグラムビューア //books.google.com/ngrams/)を使うと、200年間(開始と終了の年を入れ直すと500年以上)の歴史が分かります。英語についてはアメリカ英語とイギリス英語に分けた分析もできます。drug storeは、アメリカ英語で400年近くの前史があることが読み取れます【図2】。
そもそも「商店」が発達したのは近世です。イギリス英語ではshopと言われました。アメリカ植民地では、物資を蓄える(store)ところから発展したのでstoreと呼ばれ、英語圏の一部に方言差が生じました。アメリカ入植者にとっては薬drugが重要だったので、薬屋が日用品なども扱うようになり、drug storeが発達しました。つまりdrug storeはアメリカの地域語でした。今は世界各地に広がりつつあります。街角の表示で分かるし、背景には経済がからんでいます。このシリーズのテーマにぴったりです。
Google Ngram Viewerで検索できるのは、Google booksで電子データとして文字を読める書籍(の一部)です。これまで想像もできなかった大量データです。ただし1800年以前のデータは、本の数も少ないし、出版年の誤りも多いので、用心して扱う必要があります。
なお一言語内の方言差が世界全体の違いに発展した例としては、「お茶」の発音が中国北部のchに由来するか、中国南部のtに由来するかという世界地図があります。
参照:
The World Atlas of Language Structures Chapter 138: Tea by Östen Dahl
//wals.info/chapter/138