「日本一の山」はどこか? の質問に,多くの人は「日本一『高い』山」(また『美しい』)の意で「富士山」と答えるでしょう(80歳以上では,つい新高山と言うかも……)。
それでは皆さん,「日本一『低い』山」はご存知でしょうか?テレビその他で取り上げられて意外と有名です。大阪市港区の「天保山(てんぽうざん)」で,現在の標高は4.53mです。(「現在の~」というのは,以前の高さから削られたり地盤沈下で低くなったからです)
天保山の頂上には「二等三角点」【写真1】が設置されていて法的に「山」なのです。「山岳会」もありますし,万一に備えて「山岳救助隊」も編成されています。
(画像はクリックで拡大します)
私も先頃,長年の念願叶って登頂に成功しました。また,山岳会より「登山証明書」【写真2】の発行を受けました。この証明書が,大阪方言の方言グッズになっています。後半に「よって,その快挙を称えあなたを「いちびり精神」の持ち主であることを証明します。」とあり,天保山登山=いちびり精神の持ち主=の証明となっています。
「いちびり」について山岳会の橋本会長から「大阪弁で,ふざけて,はしゃぎまわる という意味です」とのご教示を戴きました。あり得ないと分かっていても,それをあえて受け入れることのユーモアを楽しむ心です。大阪方言の言語行動の思想的基軸をなすとも言えましょう。インターネット検索でヒット件数,約354,000件でした。
天保山は,上で紹介した標高で,全体が公園です【写真3】。一般に理解される山の遭難もほぼありません。そこを『山』として楽しむのが,この場合の「いちびり」です。
私も,登山証明書発行申請書では,一行を「登山隊」,宿泊ホテルを「ベースキャンプ」,安倍川の対岸からの大阪市営渡船の天保山渡船場を「ファイナルキャンプ」,三角点まで歩くのを「頂上アタック」などと,登山用語を使いました。登山隊員の一人(長女)が,旅行後に少し熱を出したのは「低山病」(高山病でなく)と書いたりしました。山岳会からの添え状も,「田中登山隊様」(「登山隊」は印刷)の宛名で,別に「下山後の苦難の数々……涙なくしてお便り拝見できませんでした」とのお手紙も戴きました。
《付記》
天保山山岳会より,登山証明書発行時に本文に示したご教示を賜りました。ここに記して感謝の意を表します。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。