「Sterling Typewriter」は、グロートクロス(Edward Grotecloss)率いるスターリング・タイプライター社が、1910年に発売したタイプライターです。グロートクロスは、ブルックリンで不動産業や保険業を手広く営んでいましたが、新たな事業としてポールソン(Carl Johan Pålsson)と共に、「Eagle Typewriter」を改良した「Sterling Typewriter」を製造販売することにしたのです。
「Sterling Typewriter」の特徴は、タイプ・シャトルと呼ばれる扇形の活字板にあります。タイプ・シャトルには28行×3列=84字の活字が、プラテンの方を向いて埋め込まれています。タイプ・シャトルの3列の活字のうち、下の列には「FIG」に対応する数字や記号が、真ん中の列には「CAP」に対応する英大文字が、上の列には英小文字が、それぞれ埋め込まれています。28個の各キーを押すと、タイプ・シャトルの対応する活字が紙の前へと回転移動し、紙の背面からハンマーが打ち込まれることで、紙の前面に印字がおこなわれるのです。通常は英小文字が印字されますが、キーボード左端の「CAP」を押すとタイプ・シャトルが上がって、英大文字が印字されるようになります。キーボード左上の「FIG」を押すとタイプ・シャトルがさらに上がって、数字や記号が印字されるようになります。
「Sterling Typewriter」のキーボードは、上の広告にも見えるとおり、いわゆるQWERTY配列です。キーボード上段は、小文字側にqwertyuiopが、大文字側にQWERTYUIOPが、記号側に1234567890が並んでいます。キーボード中段は、小文字側にasdfghjklが、大文字側にASDFGHJKLが、記号側に)(@/$_#%-が並んでいます。キーボード下段は、小文字側にzxcvbnm,.が、大文字側にZXCVBNM&.が、記号側に£'"?!:;§.が並んでいます。ピリオドがダブっているため、28個のキーに82種類の文字が並んでいるのです。ちなみに、下の広告でフロントパネルの左端に見えるキーは、バックスペースです。
「Sterling Typewriter」は「Eagle Typewriter」と同様、25ドルという低価格を謳っていました。しかしながら、25ドルはいくら何でも安すぎで、実際のところ、スターリング・タイプライター社の経営状態は、悪化する一方だったようです。