三省堂辞書の歩み

第4回 英和袖珍新字彙・和英袖珍新字彙

筆者:
2012年5月30日

英和袖珍新字彙

明治23年(1890)12月12日刊行
F. W. イーストレーキ、棚橋一郎共編/本文775頁/袖珍判(縦91mm)

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【英和袖珍新字彙】42版(明治35年)

【本文1ページめ】

本書は、明治17年(1884)刊行の『英和袖珍字彙』に続く姉妹編として出版された。編者の名義は明治21年(1888)刊行の『ブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』と同じで、内容もかなりの部分を同書に基づいた編集になっている。ライバルである大倉書店の辞典編者島田豊を引き抜き、斎藤精輔と協力して作られたという。

初学者向けに本のサイズを『英和袖珍字彙』の半分としたため、収録語数は減っているが好評を得て20年以上増刷が続いた。印刷は、新設の三省堂活版所によって行われている。

●最終項目

Zymotic, a. 醱酵ニテ生ジタル

●「猫」の項目

Cat, n.〔動〕猫──v.t.〔航〕錨ヲ錨拮ニ引上ゲル

●「犬」の項目

Dog, n. 犬;小人;鉄架;狼星──v.t. 追尾スル,附纏フ

和英袖珍新字彙

明治24年(1891)5月28日刊行
F. W. イーストレーキ、神田乃武共編/本文904頁/袖珍判(縦91mm)

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【和英袖珍新字彙】14版(明治29年)

【本文1ページめ】

本書は、明治21年(1888)刊行の『和英袖珍字彙』に続く姉妹編として出版された。『英和袖珍新字彙』と同様に、20年以上増刷が続くロングセラーである。

編者の神田乃武は当時、正則予備校で創立者のひとりとして教鞭を執っていた。のちに東京帝国大学の教授、東京外国語学校の初代校長となる。

初学者向けのため、内容は『和英袖珍字彙』より簡略になっているが、前書にはなかった「字彙」が載っている。また、最終項目も「ずずだま」(じゅずだま)の後に「ずうずうしい」が加わった。見出しは和英辞典で初めてをボールド体を使い、目立つように工夫がされている。

●最終項目

Zūzūsii, 図々敷, coll. a. Bold, fearless, daring, audacious, impudent.

●「猫」の項目

Neko, 猫, n. A cat; also, coll. a singing girl.

●「犬」の項目

Inu, 犬, n. A dog.

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。