第11回で『岩手弁 方言詩の世界』を紹介しました。岩手県の各放送局は,方言の高い価値をよく理解するとともに,その活用にも積極的です。
IBC岩手放送(テレビ)では,毎週金曜日朝の「じゃじゃじゃフライデー」,毎週土曜日朝の「じゃじゃじゃTV」(「TV」は「ティーヴィー」と発音)で,番組名に「方言ネーミング」を採用しています(写真1 IBCのwebより)。「じゃじゃじゃ」とは,盛岡市を中心に使用されている方言で,驚いたときの感嘆詞です(主に男性。女性は「さささぁ」が多い)。東京では「あっ」また「えっ」などと声を発するだけか,ことばを言わないこともあります。東北地方では,驚いたときことばを言い,それが各地で異なります。だから,驚きのことばにその地域を端的に表す効果があるのです。
NHK盛岡放送局では,毎週月曜日から金曜日の,昼に『ひるっこいわて』,夕方に『おばんですいわて』があります(写真2 NHK盛岡のwebより)。「ひるっこ」は,「昼」にこのシリーズの第1回で紹介した「っこ」を付けました。「おばんです」は,夕方から夜のあいさつの「こんばんは」です(似た名まえの「OHバンです」が,宮城県の宮城テレビにあります)。
NHK盛岡局には,「方言キャラクター」のオリジナルキャラクター「がんすけどん」と「なはんちゃん」が最近登場しました(写真3 NHK盛岡のwebより)。「がんすけ」は,盛岡など岩手県中部で丁寧の意を表す「-ガンス」からです。「そーでガンス」(そうでございます)などと使います。NHKのwebで絵にカーソルを当てると,用例「よがんすか」(ようございますか)が出てきます。「なはん」は,ほぼ同じ地域に使われる間投助詞また終助詞です。「それでーナハン,あのー,まさる君も…」,「そして,今,せんせ(先生=医師)ナハン,外国さ 講演だって 外国さ 行ってるんだよ。」,「よく来たナハン。」,「そうしたっけナハン。」(そうしたんだよね)などと使います。webで出る用例は「ほだなはん」(そうだね)です。
岩手朝日テレビには,「方言エンターテイメント番組」があります。宮城県の東日本放送が制作している『週刊ことばマガジン』(写真4)で,毎週土曜日朝の放送です。番組内に地元の人による「方言パフォーマンス」が必ず入ります。私も解説者として出たことがあります。
「岩手めんこいテレビ」(写真5 フジテレビ系列)は,日本の全国ネットの放送局でただ一社,社名が「方言ネーミング」のテレビ局です。「めんこい」は「かわいい」という意味の有名な方言ですね。
ところで,テレビの「方言ネーミング」には,けっこう歴史があります。『番頭はんと丁稚どん』が,大阪の毎日放送により,昭和34年(1959)から翌年にかけて放送されました。大阪の「方言ネーミング」ドラマには,ほかに『あかんたれ』や『どてらい男(やつ)』もありました。
テレビの「方言ネーミング」で,全国的ヒットの最初は,『てなもんや三度笠』(写真6 コロンビア社DVDより)でしょう。今の40歳代後半より上の人はよく知っています。「てなもんや」とは大阪方言で「…ということだ。」という意味です。大阪の朝日放送からTBS系で,毎週日曜日夕方,昭和37年(1962)から昭和43年(1968)にかけて放送され,『てなもんや一本槍』~『てなもんや二刀流』が昭和46年(1971)まで続きました。番組内ドラマは,全体が,大阪,江戸,名古屋などの方言による「方言パフォーマンス」になっていました。10年間,毎週,全国の家庭に「方言ネーミング」の「方言パフォーマンス」が放送されていたのです。若い人にも,有名な劇中CM「おれがこんなに強いのも,当たり前だ(前田)のクラッカー」は,知っている人が多いようです。
テレビの方言活用を,皆さんも気をつけてさがしてみてください。見つけたら,私たちに教えてください。