方言みやげをみると、何が地元で有名なことばとされているかが分かります。ただあることばが実際に使われていても、方言みやげに登場するには、時間がかかりそうです。100年以上前から使われていた「じゃん」と近頃出てきた新方言の「じゃね」をくらべてみましょう。
静岡市に行きました。方言を使ったポスターなどが色々手に入りました。駅の地下街の飲み屋では「じゃん」を使った歌をテープで流していました。「じゃん だら りん」はお隣、愛知県三河地方の方言として有名で、コメの袋などにもみられます【図1】。
「じゃん」の発祥地は山梨県と思われます。明治時代に甲府の方言文献に記録されているので、もう100年以上になります。長野県と静岡県には大正・昭和になって広がったようで、愛知県全体に広がったのはもう少しあとのようです。その後「じゃん」は横浜を経て戦後東京に入りました。
「じゃん」は関西を飛び越えて西日本各地にも広がりつつあります。広島県の観光キャンペーンでは「ええじゃん広島」【図2】をキャッチフレーズにしています。「わしじゃ」のように「だ」の意味で「じゃ」を使うから、なじみやすいのでしょう。
この古株「じゃん」にならって、最近出たのが「じゃね」です。東京付近の若者が使うのに、最近気づきました。いくつかの大学の知り合いに頼んでアンケートを集めたら、東北から関東にかけての男子学生がかなり使っています。
ゼミの受講学生に実際に発音してもらったら、どうも全体の調子に特徴があります。共通語と違って、栃木か茨城の「尻上がり」と言われるイントネーションに似ています。試しに「雨じゃね」と「飴じゃね」を言ってもらうと、同じになります。「雨」と「飴」を単独で言ってもらうと、区別があるのですが。また「降るんじゃね」と「晴れるんじゃね」も、最後に向けて高くなる調子で、「降る」の頭高のアクセントと、「晴れる」の中高のアクセントの区別がなくなって、全部平板になります。
貴重な現象なので、ゼミの学生の録音をとりました【表】。スピーカーのマーク三つをクリックすると、東京都内と千葉県の若者の発音が聞こえるはずです。
古株の「じゃん」にくらべると、「じゃね」は新米の言い方で、こちらは土地の方言としてなじんでいません。若い人が使う言い方なので、パンフレットや広告などにも使われていません。これから100年経つと、土地のことばとして有名になるのでしょうか。生きて確かめることができないのが、心残りです。
なお「じゃね」については以下のエッセイでも取り上げました。
<ことばの散歩道>123「新方言じゃね」『日本語学』27-9(2008年8月)