先だって、大分市から車で宮崎県の椎葉村を訪ねました。その際に見かけた「方言看板」などの事例を紹介しましょう。
宮崎県東臼杵郡椎葉村(ひがしうすきぐん・しいばそん)は県の北西部、九州山地の奥深くに位置し、昔から「秘境・椎葉」と言われ、平家の落人が都から落ち延びて隠れ住んだという伝説のあるところです。
宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町から、山あいを縫うように走る国道265号線を南下して椎葉村に入ると、旅人を歓迎する方言看板が出迎えてくれました。【写真1】
これにある「ひえつき(稗搗き)節」は、平家の残党の追討に都から派遣された武士・那須大八郎と、地元の鶴冨姫との悲恋を歌った民謡で、全国的に広く知られています。
♪ 庭の山椒の木に… と始まりますが、「山椒」は「さんしょう」ではなく、「にわ~のさん~しゅう~の~き~ぃに…」と、方言的に歌われます。
なお、宮崎県にはもう一つ、これまた全国区で有名な、高千穂地方の「刈り干し切り唄」があります。これを「切り干し刈り唄」だと思っていた人に出会ったことがありますが、「切り干し」は冬場に大根を千切りにして干した食べもの。一方「刈り干し」は冬の間の牛馬の餌にするために、晩秋、山の斜面に生えている草を「刈って干し」て保存しておくこと。その刈り取り作業のときの労働歌が「刈り干し切り唄」ですから、まったくの別物です。
ともに同じ宮崎県の産物で、ちょっと似た響きの語ですから、頭の中で混線してしまったのかもしれません。
町の商店のドアには、「飲酒運転をやめましょう!」と呼びかける、宮崎県警察のポスターが貼ってありました。「(飲酒運転で命を落としたら)母ちゃんが泣くぞ、子供が泣くぞ。飲んで乗ったら終わりだぞ!」と方言を活かしたアピールになっています。【写真2】
村内を走っていたら、道路脇の土手に、今は使われなくなった大きな甕を伏せ、それに「かてーりの里」と白い字で大書した、非常に目立つ“看板”がありました。【写真3】
「かてーり」とは、地元の方言で「助け合い」という意味だそうで、この地区の公民館(集落センター)の前にも、「かてーりの館」と書いた甕がで~んと置かれていました。
その他にも、要所要所に、案内標識としてこの甕が利用されており、うまい活用法だと感じました。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。