地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第121回 田中宣廣さん:「かだる」

筆者:
2010年10月16日

岩手県の方言に,「仲間に入る」という意味の「カダル」という語があります。

(あとに[言語説明]がありますので,押さえておいてください)

さて,この「カダル」には,有効活用の例がいくつか見られます。共通語の「仲間に入る・仲間になる」を,一言で表す方言なので,なかなか良い使い方ができるからだと思います。今回は,岩手での活用例を3例紹介します。

まず,盛岡市の高齢者の社会参加情報誌(季刊)のネーミングです【写真1】。高齢者に懐かしいことばを使ったものですね。

【写真1 サークルの会報「かだる」】
【写真1 サークルの会報「かだる」】
(クリックで他の号のものも表示)

次に,やはり盛岡市の,学生と社会人の交流企画のポスターのメッセージです【写真2】。国立岩手大学内に掲示されてあったものです。

【写真2 若者も仲間に「かだる」】
【写真2 若者も仲間に「かだる」】

また,今年の宮古秋祭りで出された,宮古市役所の鮭の形の山車(この祭りでは,港町宮古ならではの,船形や魚形の山車が出ます。鮭は市の魚)です【写真3】。西隣の(旧)川井村(かわいむら)と合併したことにちなむメッセージ「宮古゛さ、かだれんせ!!」で使われました。なお,「古」の字の右上の「゛」は語中カ行音の濁音化による「ゴ」を表そうとした工夫です。

【写真3 宮古に「かだれんせ」】
【写真3 宮古に「かだれんせ」】
(クリックで全体を表示)

[言語説明]
[1] 「カダル」は自動詞です。岩手には,対応する他動詞に「カデル」(仲間に入れる)があり,それと同じような意味で使役法を用いた「カダラセル」もあります。
[2] 「カダル」は,岩手県だけでなく,東北地方各地,また,関東や中部,そして,関西や九州の各地方で使われています。 インターネットで検索すると,それぞれ「〇〇の方言」(〇〇は地名)と,各々,自分の土地の独特の言い方だとして説明されています。
[3] 『日本国語大辞典 第二版』では,語源は「語る」で,「いつも語り合っているように親しくする。親しくまじわる。かたらう。」との説明で,初出用例は1013年『御堂関白記』,関西では1703年『曽根崎心中』までの用例が示されています。方言では,「仲間入りする。加入する。」の意味で,使用地点に[2]の各地点が挙げられています。
[4] 岩手の「カダル」の第2音節の「ダ」は,他の地方での語形や『日本国語大辞典 第二版』の記述から,東北方言の語中タ行音の濁音化現象によるものだと考えられます。

《第116回の補足》

第116回で「大阪弁の威力」を説明しましたが,公開後に見つけた使用例を紹介します。

【写真4 東北でも大阪弁】
【写真4 東北でも大阪弁】
(クリックで全使用例を表示)

岩手県盛岡市の自動車用品店です。大阪市発祥の会社なので,大阪方言のメッセージを使っています。東北の人にも大阪弁で呼びかける,というわけです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。