岩手県の方言に,「仲間に入る」という意味の「カダル」という語があります。
(あとに[言語説明]がありますので,押さえておいてください)
さて,この「カダル」には,有効活用の例がいくつか見られます。共通語の「仲間に入る・仲間になる」を,一言で表す方言なので,なかなか良い使い方ができるからだと思います。今回は,岩手での活用例を3例紹介します。
まず,盛岡市の高齢者の社会参加情報誌(季刊)のネーミングです【写真1】。高齢者に懐かしいことばを使ったものですね。
次に,やはり盛岡市の,学生と社会人の交流企画のポスターのメッセージです【写真2】。国立岩手大学内に掲示されてあったものです。
また,今年の宮古秋祭りで出された,宮古市役所の鮭の形の山車(この祭りでは,港町宮古ならではの,船形や魚形の山車が出ます。鮭は市の魚)です【写真3】。西隣の(旧)川井村(かわいむら)と合併したことにちなむメッセージ「宮古゛さ、かだれんせ!!」で使われました。なお,「古」の字の右上の「゛」は語中カ行音の濁音化による「ゴ」を表そうとした工夫です。
[言語説明]
[1] 「カダル」は自動詞です。岩手には,対応する他動詞に「カデル」(仲間に入れる)があり,それと同じような意味で使役法を用いた「カダラセル」もあります。
[2] 「カダル」は,岩手県だけでなく,東北地方各地,また,関東や中部,そして,関西や九州の各地方で使われています。 インターネットで検索すると,それぞれ「〇〇の方言」(〇〇は地名)と,各々,自分の土地の独特の言い方だとして説明されています。
[3] 『日本国語大辞典 第二版』では,語源は「語る」で,「いつも語り合っているように親しくする。親しくまじわる。かたらう。」との説明で,初出用例は1013年『御堂関白記』,関西では1703年『曽根崎心中』までの用例が示されています。方言では,「仲間入りする。加入する。」の意味で,使用地点に[2]の各地点が挙げられています。
[4] 岩手の「カダル」の第2音節の「ダ」は,他の地方での語形や『日本国語大辞典 第二版』の記述から,東北方言の語中タ行音の濁音化現象によるものだと考えられます。
《第116回の補足》
第116回で「大阪弁の威力」を説明しましたが,公開後に見つけた使用例を紹介します。
岩手県盛岡市の自動車用品店です。大阪市発祥の会社なので,大阪方言のメッセージを使っています。東北の人にも大阪弁で呼びかける,というわけです。