地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第155回 大橋敦夫さん:「もてなしの方言(長野・再び)」

筆者:
2011年6月18日

第85回で取り上げた「もてなしの方言(長野・新潟/落ち穂ひろい)」のうち、長野県内の用例を補足します。

(注)北信……長野市とその周辺
  東信……上田から小諸・佐久地域
  南信……伊那・飯田と木曽
  中信……安曇・松本および諏訪・岡谷
語例 地域 方言区画
1 おいでなして 長野市 〈北信〉
2 おいでなんし 小海町 〈東信〉
3 おいでなんしょ 飯田市 〈南信〉

ながの観光コンベンションビューロー作成のポスター用の壁紙のみを掲示しているお店を、長野市内でたまに見かけます【写真1】。

(写真はクリックで周辺も含め拡大)

【写真1】

南佐久郡小海町は、「おいでなんし 小海町」を町全体で観光の合言葉に掲げています。JR小海駅構内の看板【写真2】、駅前の観光案内板【写真3】、駅前のベンチ【写真4】などに、その用例が見られます。

【写真2】
【写真3】
【写真4】

先ごろ、松原湖観光案内所で行われた、町の物産や観光スポットなどを紹介するイベントも、「おいでなんし 小海町」がメインタイトルでした【写真5・6】。

【写真5】
【写真6】

以前、小諸市内のホテルにも、入口に「おいでなんし」の看板を掲げているところがありましたが、今ははずされています。地元の方に伺うと、明治20年代生まれの方が、昭和30年代までは使っていたが、現在、使う人はいないとのこと。小海町でも、若い世代は使わない、とのことで、地元の方に向けては、郷愁を誘うキャッチフレーズともなっているようです。

南信では、中央道飯田ICを降りたところに、歓迎のメッセージとして、「おいでなんしょ」の看板が立ち【写真7】、さらに、そのすぐ近くのガソリンスタンドの看板にも使われています【写真8】。(第44回の天龍村の例に、今回、飯田市の例が加わったことになります。)

【写真7】
【写真8】

「なさります」の変化形「なんす」の命令形「なんし」に、助詞の「よ」が付くか、付かないかで、南信・東信の地域差が出ています。

残念ながら、まだ中信の使用例が見つかっていません。読者のみなさん、ご存じありませんか。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。