地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第170回 大橋敦夫さん:方言カレンダー(新潟県長岡市)

筆者:
2011年10月1日

長岡市内の商店街を歩いていると、素敵なカレンダーが目にとまりました。

こちらの驚きを先取りするかのように、表紙には、

「おーこっこ、このカレンダー、長岡弁が書いてあるねっか」
 [=おやまあ、このカレンダー、長岡弁が書いてある!]

とあり、各月1語が、長岡の風景にあしらわれています。

(写真はクリックで拡大します)

【写真 長岡弁カレンダー】
【写真 長岡弁カレンダー】
【写真 長岡弁カレンダー】

1月……あおーれ
 会いましょう。会おうよ。(2012年1月完成予定の市役所を中心とする複合施設の名称は「アオーレ長岡」)
 「まんまくったら、ちけん様で、あおーれ」(ごはんを食べたら、平潟神社で、会いましょうね)

2月……ずらねえ
 動かない。「ずる」の否定形。(以下例文略)

3月……かがっぽい
 まぶしいこと。

4月……おっこっこ
 おやまあ、なんということだ。

5月……なじらね
 どう?英語のHow do you do?に近い。

6月……はらくっちぇ
 満腹。

7月……わんざ
 セミの幼虫。

8月……こって
 かなり。はなはだしい様。

9月……なんぎ
 体調が最悪な様。

10月……タンタン
 靴の幼児語。

11月……しょうしい
 はずかしいこと。

12月……げっぽ
 びり。最後尾。最後。

例年、長岡の花火をモチーフに製作していたものを、今回、方言カレンダーとしたねらいについて、長岡花火デザインプロジェクト(企画・製造・販売)の小森さんに伺ったところ、「長岡花火がモチーフのものを作ってきましたが、これまで数回、長岡弁カレンダーを作り、リクエストが多かったので、今年も作りました」とのことでした。

単語(方言)の選択については「長岡市出身のアートディレクター内藤昇氏とともに選択」されたそうです。

購入した方々の反応については、「ほのぼのとした写真と、なつかしい方言でお喜びいただきました」とのことで、製作者冥利に尽きるというものです。

シリーズ化の計画についておたずねしたところ、「なるべく、毎年作りたいと思っています」と、頼もしいお答えをいただきました。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。