地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第231回 田中宣廣さん: 「方言エール」のまとめ-2(全3回)

筆者:
2012年12月8日

方言エールのまとめの2回目です。節や写真の番号は,第226回からの通し番号です。

(画像はクリックで周辺も拡大表示)

【写真5】鏡ヶ丘同窓会仙台学生会会長 小野寺雄大氏ご提供(青森県立弘前高等学校教諭 佐藤正幸先生ご協力) 【写真6】筆者撮影
左:【写真5】鏡ヶ丘同窓会仙台学生会会長
小野寺雄大氏ご提供
(青森県立弘前高等学校教諭 佐藤正幸先生ご協力)
右:【写真6】筆者撮影
【写真7】筆者撮影
【写真7】筆者撮影
【写真8】筆者撮影
【写真8】筆者撮影

[2]方言エールの特徴:方言エールは,「1」の災害時が初の使用例ではありません。スポーツの応援や受験の激励で,横断幕や幟にして掲げる例が,時折認められます【写真5】。

東日本大震災後には,被害のあった東北地方北部から関東地方にわたる広域の各地で同時多発的に,多数出現しました。震災直後に,生存者が命をつなぐ,という切実な状況下で自然に手作りのものが出て,数ヶ月経過後から業者製品が出てきました。Tシャツの図柄【写真6】やバスの車体塗装【写真7】にもなりました。

[3]方言エールの種類と例:方言エールは,その出現や提示方法により,以下の3種類になります。

(ア)被災者など個人の手作り:当初多くは手書きでした。避難先の学校にあったマジックや模造紙または段ボールを使いました。その後,パソコンで作成したものや,業者製品,また,図案化されたものも出てきました【写真8】。

また,被災地出身者が,現生活地で出身地の方言の地域言語により提示した例もあります【写真9】。

(イ)企業やマスコミ,行政など:被災地内で被害を免れた大型商業施設を中心に,緊急閉店となっても,自主的に避難所となり,未販売の食品を避難者に分配し,または,翌日から青空営業を始め,方言エールを掲示していきました。マスコミでは,(ア)のような例を放送しつつ,自らもフリップを作成しました。また,役所でも方言エールを提示したところがあります【写真10】。

(ウ)外部からの救援/支援/激励:震災直後の自衛隊の災害派遣隊による救援【写真11】,警察やボランティアなどの支援,また,一般の慰問や職業芸能人の激励など,大勢が被災地を訪れ,派遣先の地域語による方言エールを掲示しました。これらは,被災地の住民の励ましに役立ちました。

【写真9】筆者撮影  【写真10】筆者撮影  【写真11】筆者撮影
左:【写真9】山梨県,都留文科大学
(web『山梨日日新聞』Miljanみるじゃん 2011年3月21日版より)
中:【写真10】宮古市役所(筆者撮影)
右:【写真11】陸自第11旅団(筆者撮影)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。