「性癖」の意味や用法が変わってきた、と活字を見たり、話を聞いたりする中で感じてきた。元より、この語は、「性善説」という場合の「性」と同様に、人の本性を意味する「性」を含んでいて、性質や癖といった意味であった。しかし、近ごろ、別の意味での「性」にかかわる、人と変わった趣味を指す人が増えてきているようだ。
性的な嗜好という意味にじわじわと特化されつつあるのは、「癖」という字の醸し出すイメージもかかわっているのであろうが、この「性」という漢字が「性格」よりも、「男性」「女性」「性欲」「性的嗜好」などの意味として多くとらえられるようになってきたことと関係するのであろう。ちなみに、韓国語で、性格といった意味をもつ「性味」(ソンミ)という語について、日本人学生に意味を推測してもらうと、その字面から、とてもここでは記せないような解釈が次々と飛び出す。
つまり漢字は、表意性を強く帯びている文字であるため、それが多義を備えている場合に、その一つの字義が影響して、語全体のもつ意味を変化させる現象が存在することになる。こういうケースは、実はそれほど稀ではないため、漢字圏においては、音声・音韻だけを対象として言語というものの全体を考えようとすると、十分な成果が得られないことがある。
韓国は、戦後、漢字を国を挙げて排斥してきた。その結果、漢字語(漢語)であっても漢字で書かれることはほとんどなくなり、ハングル表記が普通とされている。耳で聞いて分からない語をハングルで表記すれば、やはり語種、語源や語構成が明確ではなくなり、ついには固有語にとって替わられるという事態が生じている。
その結果、日本の「性癖」とは対照的な、しかし共通点をもつ現象が起こっている。次回は、それについて述べてみよう。