タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(49):Woodstock Typewriter No.5

筆者:
2019年1月24日
『Typewriter Topics』1917年1月号
『Typewriter Topics』1917年1月号

「Woodstock Typewriter No.5」は、ローバック(Alvah Curtis Roebuck)率いるウッドストック・タイプライター社が、1916年に発売したタイプライターです。前身となるローバック・タイプライター社では、ローバックは印字機構にロータリー・アクションを用いていましたが、ウッドストック・タイプライター社ではフロントストライク式に移行しています。

「Woodstock Typewriter No.5」は、42キーのフロントストライク式タイプライターです。円弧状に配置された42本の活字棒(type arm)は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段両端の「SHIFT KEY」を押すと、プラテンが持ち上がって大文字が印字されます。左側の「SHIFT KEY」のすぐ上には「SHIFT LOCK」キーがあって、「SHIFT KEY」を押し下げたままの状態にできます。インクリボンは赤黒の2色で、「TABULATOR KEY」(キーボード最上段右端)のさらに上にあるトグル・スイッチで、色を切り替えます。

「Woodstock Typewriter No.5」のキーボードは、基本的にQWERTY配列です。キーボードの最上段は、左端に「BACK SPACE」キーがあって、大文字側に"#$%_&'()*が、小文字側に234567890-が並んでおり、右端に「TABULATOR KEY」があります。その次の段は、大文字側にQWERTYUIOP¼が、小文字側にqwertyuiop½が並んでおり、右端に「MARGIN RELEASE」キーがあります。その次の段は、左端に「SHIFT LOCK」キーがあって、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでいます。最下段は、左端に「SHIFT KEY」があって、大文字側にZXCVBNM?.¾が、小文字側にzxcvbnm,./が並んでおり、右端にも「SHIFT KEY」があります。数字の1は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

ウッドストック・タイプライター社は、各地に代理店や販売店を持たず、シアーズ・ローバック社によるカタログ販売が売り上げの中心でした。この結果として「Woodstock Typewriter No.5」は、販売価格を低く抑えることができたのです。ただし、できる限り修理を不要にする、というのが、カタログ販売においてローバックが掲げた必須条件でした。「Woodstock Typewriter No.5」は、部品の数をギリギリまで減らした上で、添付のマニュアルに、全部品の自己メンテナンス方法を掲載したのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。