(第4回からつづく)
今月24日に『新しい常用漢字と人名用漢字』が発売されます。出版記念と言っては何ですが、第1章「常用漢字と人名用漢字の歴史」の内容を要約したり、あるいはちょっと脱線してみたりしながら、人名用漢字の源流を全6回で追ってみたいと思います。
人名用漢字別表の内閣告示
国語審議会は、昭和26年3月13日に固有名詞部会を発足させ、子供の名づけに使える漢字の審議を始めていました。子供の名づけに対する漢字制限を緩和することで、戸籍法第50条が骨抜きにされてしまうのを防ごうとしたのです。一方、参議院議員で元国語審議会委員の山本勇造は、参議院文部委員会を動かし、衆議院から送付された戸籍法第50条改正案に関して、参議院法務委員会に連合審査を承諾させました。連合審査となれば、法務委員会だけで本会議への上程を決めることができず、審議未了で廃案にできる可能性が高くなったのです。
固有名詞部会は『標準名づけ読本』(第1回参照)の500字をチェックし、 500字のうち75字が当用漢字に含まれていないことを確認しました。そして、この75字に17字を加えた92字を、追加すべき人名用漢字として国語審議会に報告しました。これを受けて、国語審議会は昭和26年5月14日、人名漢字に関する建議を発表しました。
国語審議会は、漢字に関する根本政策に基き、人名に用いる漢字について、次のことを建議する。子の名にはできるだけ常用平易な文字を用いることが理想である。その意味から子の名に用いる漢字は当用漢字によることが望ましい。しかしながら、子の名の文字には社会習慣や特殊事情もあるので、現在のところなお、当用漢字表以外に若干の漢字を用いるのはやむを得ないと考える。国語審議会では、この見地から、従来人名に使われることの多かった漢字を資料として審議し、慎重に検討を加えた結果、別紙に掲げる程度の漢字は当用漢字以外に人名に用いてもさしつかえないと認めた。この問題は国語政策に及ぼす影響がすこぶる大きいので、その点じゅうぶんに考慮し、善処されることを要望する。
人名用漢字92字は、5月21日の次官会議に持ち込まれ、さらに5月22日の閣議で了承されました。そして、昭和26年5月25日、人名用漢字別表92字は内閣告示されました。同じ日に戸籍法施行規則も改正され、子供の名づけに使える漢字は、当用漢字表に加えて人名用漢字別表92字もOKとなったのです。
(最終回「戸籍法第50条改正案の顛末」につづく)