クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―

22 ドイツ語の造語力(2)

筆者:
2008年9月1日

前回(ドイツ語の造語力(1))、ドイツ語の特徴として造語力の高さがあると述べた。

ドイツ語の造語方法には、一応の規則がある。単語どうしを組み合わせる複合では、たとえば

Haus 家 + Tür 扉 → Haustür 家の扉
Haustür 家の扉 + Schlüssel 鍵 → Haustürschlüssel 家の扉の鍵

のように「修飾部+主要部」となり、新しくできた複合語全体の意味に関しても、性や複数形の作り方に関しても、右側の単語が主要部となる。接辞を使った派生でも、たとえば

be-(接頭辞)+ fahren 運転する → befahren 通る
Haus 家 + -lich(接尾辞)→ häuslich 家の

のように、普通は接頭辞は品詞を変えることはないが、右側にある接尾辞は、新しくできた派生語の品詞を決める力がある。つまり、ドイツ語の造語に関しては「主要部は右側」という原則があるようだ。

ドイツ語は、造語力の高い言語である。しかしドイツ語とならんで実は日本語も、特に漢語を使えば、造語力が非常に高い言語の一つである。複数の単語を組み合わせた複合語は日本語にも数多くあり、また日本語話者ならばかなり自由に新しい複合語を作ることもできる。たとえば実際には存在しない「東京特許許可局局長秘書」などのように。

造語力の高さという共通点を持つドイツ語と日本語だが、複合語の作り方には違いもある。日本語には「修飾部+主要部」となる限定複合語と並んで、「連辞的複合語」と呼ばれる複合語も多い。たとえば「父母」「山河」など、このタイプの複合語は、どちらが主要部とも言えず、並列関係にある。

このタイプの複合語は、ドイツ語にも存在はするのだが、数は限られており、生産性も低い。たとえば日本語の連辞的複合語「父母」に対応する複合語を作ることはできず、

Vater 父 + Mutter 母 → *Vatermutter

別の単語 (Eltern「両親」) を使わなければならない。ドイツ語は造語力が高いとはいえ、何でもできるわけではないのである。

ドイツ語にある数少ない連辞的複合語としては、クラウン独和第4版には

schwarz 黒 + weiß 白 → schwarzweiß 白黒

などの他、州の名前(たとえば Schleswig-Holstein)などが掲載されている。これら以外は、あまり勝手に作って使わない方がよさそうである。

筆者プロフィール

『クラウン独和辞典第4版』編修委員 重藤 実 ( しげとう・みのる)

東京大学大学院人文社会系研究科教授
専門はドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員

編集部から

『クラウン独和辞典』が刊行されました。

日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

(第4版刊行時に連載されたコラムです。現在は、第5版が発売されています。)