« 明日は何の日:9月7日 - 明日は何の日:9月8日 »

地域語の経済と社会 第13回

2008年 9月 6日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第13回「方言名の公共施設」

 最近、各地の方言で名前が付けられた公共施設などが増えてきています。

 具体例を見ていきましょう。私が知る範囲では、東北地方に特に目立っています。

【アウガ(AUGA)のロゴ】
【写真1 アウガ(AUGA)のロゴ】
ロゴマークの赤・緑・青・橙は、
それぞれリンゴ・自然・海・祭り
を連想させ、全体の形は青森
県と陸奥湾を表現している

【えずこホールの外観】
【写真2 えずこホールの外観】

 青森市にある「アウガ(AUGA)」(写真1 平成13年に設置。以下( )内は同様に設置年)は、「会う・うれしい・げんき・あたたかい」のローマ字表記の頭文字をつないだもので、津軽弁の「あうが」〔会おうよ〕の意も含まれています。またこのビルの中には、青森市男女共同参画プラザ「カダール」〔仲間になる、語る〕もあります。

 岩手県盛岡市の「プラザおでって」(H13)の「おでって」は〔おいで〕の意ですし、花巻市「なはんプラザ」(H4)の「なはん」は文末に付く〔~ね〕という意味の語から、また久慈市の「おらほーる」(H10) は〔おらほ〕=自分たちのところ+ホールです。

 宮城県大河原町の仙南芸術文化センター「えずこホール」(写真2 H8)の「えずこ」は、〔昔の育児用の藁製のかご〕のことで、建物の外観も「えずこ」の形をしています。地域文化創造のゆりかごのような役目を果たせるように……という願いを込めたものです。

 福島市の「コラッセふくしま(CORASSE)」(H15)の「コラッセ」は〔おいでください〕の意で、COは英語の接頭辞「ともに、共同で」、ASSEはイタリア語の「軸、基軸」の意にもかけてあるとのことです。

 また、北陸の富山県黒部市には国際文化センター「コラーレ(COLARE)」(H7)があり、〔いらっしゃい〕という意味です。

 以上挙げた施設は、いずれも主に利用するのは地元の人たちだろうと思われます。

 一方、南のほうからも挙げましょう。これは、県外に設置されており、主な利用者として地元以外の人たちを想定しているケースです。

 宮崎県が東京の新宿駅南口に開設(H10)しているアンテナショップ(消費者の関心や嗜好がどういうものに向いているのかをいち早く知るために設置する店舗)の名前は「新宿みやざき館KONNE」です。「KONNE」は宮崎の方言「来んね」で、〔(宮崎県に)来ませんか〕という意味。従来どおりの命名法だと「宮崎県物産館」「宮崎県特産品紹介センター」「宮崎県物産観光プラザ」「宮崎県とっておき情報プラザ」……、などといった名前になったところだったでしょうか。

 今までに挙げた例にもあったように、方言をローマ字書きにするケースが多いのも近年の傾向で、方言を一見外国語風に表記して、しゃれた感じと、何だろう?と思わせる効果をねらったものです。

 こういった方言名の施設が増えている理由としては、《同じ名付けるなら、平凡で陳腐なものよりも、その土地らしさがより強くアピールできて印象に残り、皆により親しまれる名前を付けたい》という意識と欲求が高まってきたことが挙げられるでしょう。

 今後、どの地域で、どういう個性的なネーミングが登場するのか、楽しみです。

【参考】 さらに詳しくは、各施設のホームページなどをご覧ください。

また、日高貢一郎「方言によるネーミング」(明治書院『日本語学』、平成17年10月号)には、その他の分野や商品名などを含む、全国各地の約80件の事例を紹介してあります。

* * *

◆この連載を続けてお読みになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」アーカイブへ

◆記事のタイトルからお探しになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」目次へ

【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)など。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2008年 9月 6日