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『三省堂国語辞典』のすすめ その57

2009年 3月 4日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

伝統的な誤り、ミゾユー。

【味噌汁とお湯】
【みそと湯でミソーユー】

 麻生首相が、漢字を多く読み間違えることで批判されています。「未曾有(みぞう)」もその漢字のひとつで、「ミゾユー」「ミゾーユー」などと読んだと報道されています。私が録音で確かめたところでは、「ミゾーユ」と発音していました(2008.11.12、学習院大学でのあいさつ)。たしかに、あまり聞かない読み方ではあります。

 でも、これは、首相だけの独特な読み方というわけではありません。『三省堂国語辞典 第六版』の「未曾有」の項を見ると、次のように注記があります。

 〈「ミゾー」「ミゾーウ」とも発音する。「ミゾユー」は あやまり〉

【週刊誌の記事】
【ごうごうたる非難】

 『三国』の主幹だった見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)は、「未曾有」のさまざまな語形を採集しています。テレビでは、「有」を「ウ」とはっきり発音する「ミゾウ」も、また、「曾有」の部分を「ゾー」と長音化する「ミゾー」も聞かれることが分かります。

 1960年代の雑誌からは、以下のように、〈みぞおう〉の例が拾われています。『三国』で〈「ミゾーウ」とも発音する〉と説明しているのがこれです。

 〈「おもうつぼ」か、「おもおうつぼ」か。「古今みぞう」か、「古今みぞおう」かというふうなことがあります。〉〔片桐顕智・放送による話しことばの建設〕(『日本語』1966.3 p.4)

【見坊カード】
【「ミソーユー」の例】

 また、当時の深谷市長が「ミソーユー」と発音した例も採集されています。「未曾有」に関する政治家の発音の例としては、麻生首相よりも40年以上早いものです。

 〈台風26号で死者四人、損害三億円というミソーユー(未曽有)の被害でしょう。市民も、それが当然と思ってますよ〉(『週刊朝日』1966.10.14 p.29)

 問題の「ミゾユー」の例は、残念ながら、見坊カードの中には見当たりません。ただ、『三国』では、初版(1960年)から〈「みぞゆう」はあやまり〉と記しており、昔からある言い方だと分かります。実際、NHK放送文化研究所の塩田雄大さんによれば、戦前には、「未曾有」には「ミゾユー」「ミソーユー」など、少なくとも6つの読み方のあったことが確認されているそうです(『放送研究と調査』2009.2)。

 何をもってことばの正誤とするかはむずかしいものですが、「ミゾユー」が要注意の言い方であることは、『三国』が昔から指摘しています。麻生首相が『三国』を愛用してくださっていればよかったのに、と惜しまれてなりません。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

2009年 3月 4日