人名用漢字の新字旧字

人名用漢字の新字旧字・特別編 (第6回)

筆者:
2009年5月25日

人名用漢字の新字旧字の「曽」「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。

市町村長が即時抗告した場合

家庭裁判所の審判で申立てが認容されたにもかかわらず、市町村長が即時抗告した場合、事件は高等裁判所に移ります。ですが、即時抗告申立書は家庭裁判所に提出された後、事件記録もろとも高等裁判所に送付されるので、まずは家庭裁判所に出向いて、あなたの事件記録(市町村長の即時抗告申立書を含む)の閲覧・コピーを願い出てみましょう。また、抗告審を担当する高等裁判所の窓口と電話番号は、必ず確認しておいて下さい。

事件記録が、すでに高等裁判所に送付されてしまっていたら、高等裁判所で閲覧・コピーを願い出ましょう。その際、原審(家庭裁判所での審判)の事件番号、あるいは事件記録の送付日をもとに、抗告審での事件番号を調べてもらう必要がありますので、高等裁判所の窓口で相談してみましょう。

閲覧・コピーできたら、市町村長の即時抗告申立書を熟読します。その上で、即時抗告申立書の『抗告の理由』に対して、必ず反論します。『抗告の理由』には、問題の漢字が「常用平易」ではない、という主張が含まれているはずですので、その部分に関しては特に強く反論しておく必要があります。できる限り過去の判例を参照し、必要ならば、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査(61~280ページの「新凸版印刷調査」)の結果も駆使して、問題の漢字が他の人名用漢字に比べても「常用平易」だ、ということを理路整然と主張すべきです。反論は、答弁書の形で、高等裁判所に提出します。

高等裁判所での決定

高等裁判所の抗告審では、抗告を申立てた側を抗告人、申立てられた側を相手方と呼びます。単純に言えば、原審が却下だった場合は、あなたは抗告人になります。原審が認容だった場合は、あなたは相手方になります。

高等裁判所は、家庭裁判所での事件記録と、即時抗告申立書や答弁書をもとに、抗告を棄却するか、あるいは原審判を取り消すか、そのいずれかを決定します。通常は3人の裁判官の合議により、書類だけで審理が進むのですが、場合によっては高等裁判所に呼び出されて、質問(審尋)を受ける場合もあります。即時抗告から決定まで、3~12ヶ月を要します。

では、高等裁判所でどのような決定が出た場合に、あなたはどのように対応することになるのでしょう。それについては、次回(第7回)にいたします。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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