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地域語の経済と社会 第143回 鹿児島市の「キャンセビル」と「よかセンター」

2011年 3月 26日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第143回 「鹿児島市の「キャンセビル」と「よかセンター」」

 鹿児島に行ってきました。つい先日3月12日に九州新幹線が全線開業し、新大阪駅から終点の鹿児島中央駅まで最速3時間45分で行けるほど時間距離が縮まりました。が、おりしも東日本を襲った巨大地震の直後だけに、予定されていた祝賀行事などはなく、静かなスタートになったということです。

【写真1 キャンセビル入り口のプレート】
【写真1 キャンセビル入り口のプレート】

 その鹿児島中央駅東口のすぐ前に、スーパー「ダイエー」などが入っているビルがあり、その名を「キャンセビル」という由。一瞬「一体これは何語だろうか?」と思いましたが、実はこれ、鹿児島の方言にちなんだ名前だとのこと。

 鹿児島では「キバイヤンセ」〔気張りなさい、元気で頑張りなさい〕のように、「~シヤンセ」は、相手にやさしく〔~しなさい〕と勧めるときに使う敬語表現です。「キャンセ」は「来ヤンセ」をもじったもので、〔どうぞおいでください、いらっしゃい〕と呼びかけています。このビルは、駅前再開発によって、平成11年6月に完成。名前は1200点もの応募作の中から選ばれたのだそうです。

 またこのビルの7・8階には「よかセンター」があります。正式な名称は、鹿児島市長を理事長とする「財団法人 鹿児島市中小企業勤労者福祉サービスセンター」が運営する「鹿児島市勤労者交流センター」といい、「よかセンター」はその愛称(鹿児島方言でいうとシコナ(醜名)=ニックネーム)です。

【写真2 「よかセンター」の案内掲示】
【写真2 「よかセンター」の案内掲示】
(クリックで画像の全体を表示します)

 ここには、体育館やトレーニングルームなどの運動施設、多目的ホールや会議室・和室・創作室などの文化施設があり、くつろいだ雰囲気の中で雑誌や新聞を読めるサロン、囲碁・将棋を楽しめる娯楽室なども備えています。駅のすぐ前という非常に便利なところにあり、使用料も安く、市民に盛んに利用されています。

 「よか」は言うまでもなく、九州方言を代表する、「高か、安か、速か、楽しか、…」のように語尾が「~か」で終わる、いわゆる「カ語尾」の形容詞で、〔良い〕という意味ですが、もちろん「余暇」を有効に活用して充実した毎日を過ごそうという意味も含まれています。鹿児島市役所のホームページにも、この施設は「勤労者の余暇活用の充実と相互の交流を促進するために設置したもので……」とあります。

 以前、この連載の第13回で「方言名の公共施設」を取り上げ、青森駅前のビル「アウガ」〔会おうよ〕と、その中に入っている青森市の男女共同参画プラザ「カダール」〔仲間になる、語る〕を紹介しましたが、この鹿児島市の例も、期せずしてまったく同様の発想で命名されており、日本の北と南で同じようなネーミングが行われているその偶然の一致が、非常におもしろく思われます。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2011年 3月 26日