耳の文化と目の文化(27)―地名の表記(1)―
2011年 4月 4日 月曜日 筆者: 新田 春夫クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(113)
地名などの表記はこれまで見てきたような正書法が当てはまらない場合がある。例えばウムラウトの表記である。ウムラウトは現在の正書法ではa, o, uの母音の上に点をふたつ(¨)つけて、ä、ö、üのように表す。これは地名といえども同じである:Eichstättアイヒシュテト、Kölnケルン、 Münchenミュンヒェン。
この母音の上にふたつの点をつける表記法はそれほど古いものではない。中世、近世では母音の後や母音の上にeを書いて表していた。母音の上にふたつの点をつける現在の表記法はこのeを″によって省略したことに由来する。
北西ドイツにUelzen [Yltsən]ユルツェンという2つの同名の町がある。ひとつはニーダーザクセン州に、もうひとつはノルトライン=ヴェストファーレン州にある。この地名の[Y]という音を表記するのにUeとするかÜとするかは揺れていたらしく、ノルトライン=ヴェストファーレン州のユルツェンなどは現在のような表記にすることが公式に決まったのは1961年とのことである。また、メクレンブルク=フォアポメルン州の最東端、バルト海に臨むところにUeckermündeという町がある。この町の名前は「Uecker/Ucker川の河口」という意味に由来する。この川の名前のuはもともとは長音だったが、その後、長音を表すeを加えて、Ueckerという表記が生まれ、さらにその後、eがウムラウト記号と解釈されてÜckerという表記も現れ、Ue/Üは短音になった。この川はブランデンブルク州から流れ出るのであるが、今日では連邦地理院によって、ブランデンブルク州ではUcker、メクレンブルク=フォラポメルン州ではUecker とすることが決められている。従って、河口の町Ueckermündeは[YkɐgəmYndə]ユカーゲミュンデと発音する。
しかし、eが常にウムラウトを表しているかといえば必ずしもそうではない。ノルトライン=ヴェストファーレン州のユルツェンの東方25キロばかりのところにSoestという町があるがこれは[zo:st]ゾーストと発音する。つまり、eはウムラウトを表しているのではなく、長音記号なのである。このような表記の地名として他にはシュレースウィヒ=ホルシュタイン州にItzehoe [Itsəho:]イツェホーという地名がある。
ちなみに、eや他にもiを長音表記に使うのは低地ドイツ語に見られる表記法であり、上の地名の例もすべて低地ドイツ語地域のものである。
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【筆者プロフィール】
新田 春夫(にった・はるお)
武蔵大学教授
専門は言語学、ドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員
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【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。







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2007年









