地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第167回 井上史雄さん: グーグルインサイトによる「キャンディーバー」と「チョコレートバー」―英語の世界的方言差の活用―
“Candy bar” and “chocolate bar” by Google insights―Utilization of global dialectal differences of English language―

筆者:
2011年9月10日

アメリカ英語とカナダ英語の違いについての発表がありました。その一語についてグーグルインサイトGoogle insightsで世界地図を作ってみました【図】。発表のとおり、アメリカでは“candy bar”が多く、カナダでは“chocolate bar”が多いのですが、実は世界的な差で、アメリカ英語とイギリス英語の違いだと分かりました。

【図 グーグルインサイトによる“candy bar”の地図と増減】
【図 グーグルインサイトによる“candy bar”の地図と増減】(クリックで拡大表示)

また画面左上の折れ線グラフで近年の使われ方を見ると、“candy bar”が減って、二つの言い方の線が近づいています。ただし将来予測としては“chocolate bar” が衰えるように読み取れます。

グーグルマップでも世界地図を作りました。店の写真で、店名に活用されていることが分かります。グーグルストリートビューに飛ぶと、町並みも見えます。また“Candy bar girls”というイギリスの女性タレントグループが最近売り出したようです。アメリカ英語的な言い方を活用したわけです。

ただ用心が必要です。インターネットで画像を検索すると、実物が違います。“chocolate bar” では、板チョコの写真が出ます。一方“candy bar” では、キャンディーが出ます。

 

インターネットを上手に使うと、世界の方言差が分かります。グーグルインサイトの説明は、以下にあります。

 //www.google.com/insights/search/

 グーグルインサイトの活用例は第162回、グーグルマップの使い方は第127回に出ています。また以下の論文もあります。井上史雄「Google言語地理学入門 Introduction to Google Linguistic Geography」『明海日本語16』(リンク先はPDF)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。